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オランダ靴の謎/The Dutch Shoe Mystery  (ねこ4.3匹)

友人・ミンチェン博士の誘いでオランダ記念病院へ赴いたエラリー・クイーンは、病院オーナーである老女の手術を見学する事になった。だが、いざ手術の直前、寝台に横たわっていた老女はすでに何者かに絞殺されていたのだ。犯人は病院の中に?遺言書から怪しい人物が浮上するも、アリバイや機会の問題が立ち塞がる。さらに犯行時目撃された外科医師は事件にどのような役割を果たしたのだろうか。エラリー・クイーン国名シリーズ、第三作。


自分が最も記憶にない国名シリーズの一つである。劇場、デパートと来て今回の舞台は病院。当時の記憶では相当読みにくかった印象があるが、何故これに苦戦していたのかがわからないスムーズさだった。この作品からクイーンらしさが目立ち始め、馴染みのある空気感に安心したためか。
しかし覚えていない事に変わりはない。靴の敷布が奥に詰められていた理由以外はさっぱり銀河の彼方である。(←えばるな)タイトルになっているぐらいだから論理の出発点のはずだが。そういうわけで、大量の登場人物リストをとっくり眺めるところからスタート。名前か身分で犯人思い出すんじゃないかと思ったのだが甘かった。紹介文もちょっとところどころヒドイね。

サラ・フラー………お友だち (誰のだよ)
マイケル・カダーイ………町のだに (他の言い方はなかったのか)
ヘンドリック・ドールン………黒い羊 (もはや意味不明)


あまり人気の高い作品ではなかったと認識しているが、なかなかどうしてどうして立派なものである。
論法はクイーン得意の消去法がメインで、犯人足り得ない人物を明確な推理をもって排除して行く。これをやってくれるミステリはなかなかない。また、第一と第二の殺人が同一人物の犯行であるという理由を列挙するのみならず、犯人がなぜ同一人物であることを主張したのかという論理も実に見事だ。出来れば切れた靴紐を絆創膏で補わなければならなかった理由の根拠が堅固であるものの、「偶然そこにあった」可能性がなぜゼロなのかを述べてくれていれば完璧だった。絶対に絶対に有り得ない事じゃないからね。
あとは、ローマ帽子みたいに「行き詰まったら必ずそこで靴が問題となる」と良かったね。

そして恒例の「読者への挑戦状」。改めて凄いなと思うのが、フェアプレイはもちろん、「与えられた手がかり」がその時点でなくとも到達し得るものだと言い切っている姿勢。後出しの証言や伏線はないってことだから、これでもうこっちの負けでいいよと思ってしまう。
さらに面白いのは途中の章のすべてで突然読者用の「余白」が下半分に用意されること(笑)。読者が推理のためにメモをとって下さい、だそうだ(笑)。後から思うけど、メモはもっと後の章の方が必要だったな^^;まるでクイーン警視の見せ場づくりのためのようだった^^;ジューナ少年が変装グッズで遊んだりと、結構和みポイントがあるぞ(笑)。

久々にクイーンを読んで思った事は、こういう論理だけでときめかせてくれる本格にへたな雰囲気づくりやキャラの立ちなんか邪魔でしかないって事。欲しいものすべてこれ論理の中にあるんだもん。


(396P/読書所要時間5:30)※創元推理文庫 2006年77版