すべてが猫になる

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クリムゾン・リバー/Les Rivieres Pourpres  (ねこ3.7匹)

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ジャン=クリストフ・グランジェ著。創元推理文庫

古い大学町周辺で次々に発見される惨殺死体。両眼をえぐられ、両腕を切断され…。同じ頃別の町で起きた謎の墓荒らし。二つの事件の接点は何か?フランス司法警察の花形警視と、いなか町の若き警部がたどり着く驚愕の真相。殺人者の正体は?死んだ少年の墓はなぜ暴かれたのか?「我等は緋色の川を制す…」という言葉の意味するものは?仏ミステリ界期待の大型新人登場。RTL‐Lire文学賞受賞。(あらすじ引用)


べるさんに便乗して読んでみた^^。

映画の方は観ていないのだが、べるさんや他の書評を見るとどうやら映画とは大幅に内容が違う様子。それはありがちだと思ったが、ダブル主役の1人・カリムは映画では出て来ない役だと聞いてさすがに「オイ!」と心の中で突っ込んだ。孤児院で育ったアラブ系フランス人二世、闇稼業を経て警察官になったというこの男のポジションはかなり重要だと思うんじゃが。。。まあ大人の事情だわね。対してベテラン捜査官・フランス司法警察警視正であるニエマンスの個性もカリムに負けていない。ざっくり彼の人となりを言葉にすると、熱血・暴走・女好きの三つだ。正直、「またこういうキャラ?」と思った^^;自分は暴力的に突っ走る過去に何かある渋い刑事ものは苦手なのだ。冒頭のフーリガン事件、ニエマンスが犯人に対して行った異常な暴力シーンを読んだ瞬間、ああもうダメだなこれ、と思った。そして事件の目撃者に聞き込みをしに行って、いきなり欲情しているよ。。(ふぅ。。)

しかし読ませるお話なので退屈という事は全くない。拷問され崖に押し込まれた死体の謎を追うニエマンス側と、墓荒らしと学校の盗難事件を捜査するカリム側が交互に展開され、2つの交錯しない事件が接点を見つけていく様は見事だ。難を言えば、ニエマンスとカリムの出会いが遅すぎる。このまま出会わないで終わるんじゃないかと心配したんだから^^;孤独な二人の刑事がやっと鏡合わせのように協力し合い
相棒として認め合って行くのだから、もっとそのあたりは描き込んで欲しかった。だってこの作品、割と犯人や先の展開が読めるんだよね。。


まあそれはそれとして、一読エルロイやコナリーを彷彿させると感じた。容赦ない暴力や人種の壁、作者の主要人物に対する遠慮のないラスト。そもそも、最初に驚いたのは「フランスの小説っぽくない」というところだったのだ。自分はシリアル・キラーというとやはりアメリカやイギリスを連想する。読み進めると、これが極めて理性的で明確な動機のもとに繰り広げられた犯罪だと言うことが分かるのだが、「生物学的特徴に根ざすアイデンティティーの破壊」すら犯人の計算であると考えた場合、どうしても抵抗を禁じ得ない。

そう考えるとある意味びっくりする作品ではあった。唯一前述した既読の作品と違うと思ったのが、ラストの悲劇が美談になっているところだ。要はただその一点で一般向きってこと。


(487P/読書所要時間4:00)