すべてが猫になる

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たったひとつの冴えたやりかた/The Starry Rift  (ねこ4.2匹)

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ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著。ハヤカワ文庫。

やった!これでようやく宇宙に行ける!16歳の誕生日に両親からプレゼントされた小型スペースクーペを改造し、連邦基地のチェックもすり抜けて、そばかす娘コーティーはあこがれの星空へ飛びたった。だが冷凍睡眠から覚めた彼女を、意外な驚きが待っていた。頭の中に、イーアというエイリアンが住みついてしまったのだ!ふたりは意気投合して〈失われた植民地〉探険にのりだすが、この脳寄生体には恐ろしい秘密があった…。元気少女の愛と勇気と友情をえがいて読者をさわやかな感動にいざなう表題作ほか、星のきらめく大宇宙にくり広げられる壮大なドラマ全3篇を結集!(裏表紙引用)


SFに疎いゆきあやでもタイトルを知っている、<SF短編オールタイムベスト>常連作品に挑戦した。
短編というより中編集。知的生命体コメノ族の図書館司書が、カップルにお薦めするヒューマン(人間)
と異星人の物語3編、という設定。感動・感涙のスペース・オペラとの触れ込みなので多大な期待と共に読んでみた。著者が70歳だったという事も興味深い事のひとつ。

ではそれぞれの作品の感想を。少し内容が具体的になっていますが。。


たったひとつの冴えたやりかた

あらすじは↑の引用をご参照下され。
宇宙人とのファースト・コンタクトに憧れる少女という設定が面白い。普通こういう行動を起こすのは少年じゃないか?と思ったのだが、16歳という大人と少女の境目にある年齢である事を鑑みて、ただの憧れと勢いだけではない事がおいおい分かって来る。脳に寄生した病原菌(シロベーン)と少女(コーティ)が親友になるという物語なのだが、会話の面白さやシロベーンの体質もさることながら、シロベーンが隠していた秘密が明らかになっていってからの怒涛の展開が涙を誘う。その決断と人間性の高さはこの年齢の少女だからこそ引き立つ気がする。お互いの友情を確かめ合う会話は、リミットがあるゆえの真実だろう。シロベーンの勇気を最後まで称えることをやめなかった彼女の「たったひとつの冴えたやりかた」は、コーティだけでなくシロベーンのものでもあったと思う。ラストの残されたものの言葉がそれを証明している。

ただ、自分は「インデペンデンス・デイ」のラストとどうしてもかぶってしまったので。。。


『グッドナイト、スイートハーツ』
記憶を喪失した男が、かつての恋人と再会した。恋人のクローンまで出現し、彼の心は乱れてしまう。老いたが思い出を抱えたままの元恋人か、若きクローンか。。海賊との闘いで苦渋の決断を強いられた男の
出した答えとは。。
自分は表題作よりこちらの方が好きだ。二着しかない宇宙服、選べない二人の恋人と責任感。コメノ族が「ヒューマンにこういう側面があるとは」と驚いていた通り、自分がこうなったら彼と同じ判断をしそうな気がする。彼の迷いって、純粋で、真っ直ぐと言い切れない感情じゃない?こういうのの方が奥が深いな。


『衝突』
ちょっと設定を把握するのに苦戦したのだけど、ヒューマンと戦争をしている惑星があって、別のところから同じ惑星と戦争している異星人が現れた、って事でいいよね?で、ヒューマンと協力し合おうという。異なる言語を理解し合おうと尽力してコミュニケーションが活発になって行くさまが読みどころ。
実は一番好きになったお話がこれ。自分の琴線って、泣く泣かないの問題じゃないんだよ。

「ともだち・なる・わたしたち・お互い・信じる・しないと・だめ!お前の話・本当・信じる!」
「連邦・戦争・ほしくない。連邦、友だち、ほしい!戦争・わるい!平和・来る!」

人間が異星人に言われちゃってるよ、聞こえるかな。


(379P/読書所要時間3:00)