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鑢 名探偵ゲスリン登場/The Rasp  (ねこ3.2匹)

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フィリップ・マクドナルド著。創元推理文庫

大蔵大臣ジョン・フード殺害さる――特種をいち早くキャッチした〈梟〉紙は、第一次大戦の英雄にして明晰な頭脳の持ち主、アントニイ・ゲスリン大佐を現地へ特派する。終盤に至って新聞記事原稿として掲げられる、客観データと論理的考察が導く事件の真相とは? マザーグースの調べに彩られた、名探偵ゲスリンの記念すべき初登場作品。(裏表紙引用)


なんだかんだ言いつつも3冊目のフィリップ・マクドナルド。あーだこーだ言いつつ結局は読めば読むほど作品が好みに近づいて行くのであった。

正直言うと、読んでいる最中に新刊ラッシュに巻き込まれ1週間程中断してしまい、乗れなかった箇所があるのが嘆かわしい。しかも伊坂・道尾作品の後にコテコテの古典を読むというのはカレーを作った後に懐石料理を作れと言われている苦労に匹敵するのである。ゆえにねこ点の低さ=作品の出来ではないとはじめに言い訳しておく。


さて、本書は言った通りのコテコテ探偵本格である。密室もの、アリバイ崩しというスタンダードな謎解きが探偵小説の常道の通りに展開されてゆく。探偵役のゲスリンはこれと言って何の印象も抱かないステロタイプな人物像であるが、逆に言うと反感が芽生えないと言えよう。謎解きは至って丁寧かつ論理的で、第一の容疑者に対する「判定の甘さ」や証拠という詰めの部分になると警察の捜査を頼る部分だけが
弱いところだ。しかし本書で印象に残るのはロマンスの部分なのだ。「決まった伴侶に出会えない」が特徴であったはずのゲスリンのみならず、編集者ヘイスティングスにも甘い恋愛が。はっきり言って、読んでいて恥ずかしくなるほどのバカップルたちである。
本格とロマンスの融合をはじめにやったのは「トレント最後の事件」(我が挫折本)だと聞いたが、こんな感じであるなら意外とアレも合うのかもしれない。

(342P/読書所要時間3:00)