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光媒の花  (ねこ3.9匹)

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道尾秀介著。集英社

もう、駄目だと思った。それでも世界は、続いていた―少女は無限の想像力でこの世界を生き延び、少年はたった一つの思い出にしがみつく。一匹の蝶が見た悲しみの先に広がる光景とは…渾身の連作群像劇。 (あらすじ引用)


ミッチー待望の新刊は連作短編集。
表紙が素敵で惚れ惚れいたします。ミッチーと言えば、短編集は3冊目だったか。本書は「鬼の跫音」のような幻想的な雰囲気と、「花と流れ星」のミステリ要素を足して2で割ったような芸術文学。

『隠れ鬼』
印章店を継ぎ認知症の母親と暮らす40代の独身男性。父親は30年前に自殺しているが、ある日母親が描いていた一枚の絵が彼の昔の記憶を呼び戻した。
30年に1度しか咲かない笹の花の下で殺されていた女性。犯人は父親と目されたが。。というミステリ作品。少年時代の淡い恋心がよく描かれており、物語の反転もうまい。

『虫送り』
印章店の前で隠れ鬼をしていた少年が主人公。少年には幼い妹がいて、二人河原で虫捕りをする習慣があった。。
ホームレス殺人の真相を、意外な人物が暴く。幼いきょうだいに巣食った暗い秘密と心の深い傷。なんて残酷な試練を与えるのかと暗い気持ちになる。

『冬の蝶』
今回はホームレス殺人の真相を暴いた男が主人公となる。幼い子供に痛ましい告発をしてしまった彼は同じくホームレスで、少年時代は昆虫学者になるのが夢だった。
中学二年の彼が出会った薄幸の少女。少女の秘密を知ってしまった彼は行動を起こすが。。。こういうのって、大人が悪いからやりきれない。そして、大人の犠牲になった少年が大人になって過ちを繰り返す。

『春の蝶』
暗い過去を持つ女性・サチの隣に住む老人のところに、娘と障害を持つ孫娘が同居し始めた。老人たちと
懇意になったサチだが、ある日老人の家に泥棒が入ったという。
母親の人物造形が痛いものだから、なんとなくこういう事情だったんだろうな、と予想はつく。前3話がやりきれないラストばかりだっただけに、こういうあたたかいお話もいいもんだ。『冬の蝶』のその後という意味でも。

『風媒花』
トラック配送の仕事をしている青年の姉が病気で入院した。父が癌で亡くなって以来、母親に敵意をむき出しにして来た青年だが。。。
哀しげな童謡が効果的な作品。あまり共感できる主人公ではないが、家族愛がテーマとなっていて嫌いではない。カタツムリのアレはどうかと思うが。。

『遠い光』
前話で入院していた姉が主人公。小学校教諭の姉は、担任しているクラス生徒の問題行動に翻弄される。
無口な子は人より多くのことを考えている気がする。大人でもそうなのだから、子供にとって親の再婚や血の繋がりがどれほどの大事件かと言うともうそれだけで世界がいっぱいなのだ。
ずっと光の中に生きている人も居れば、見えない光を追いかけ続ける人も居る。自分の力で見つけられた光ほど美しいものはないな。


以上。
前半と後半、比べると後半はミステリ色が薄い。総じて幻想文学という括りでいいだろう。個人的には道尾さんらしい前半の方が好きだったが、それぞれの登場人物がリンクして全体で物語を完結させているのが良かった。一話一話では終われないんだよ。闇から光へ人生は続く、人は繋がる。


(258P/読書所要時間2:30)