すべてが猫になる

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赤い右手/The Red Right Hand  (ねこ3.8匹)

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ジョエル・タウンズリー・ロジャース著。国書刊行会。世界探偵小説全集24。

結婚式を挙げに行く途中のカップルが拾ったヒッチハイカーは、赤い眼に裂けた耳、犬のように尖った歯をしていた…。やがてコネティカット州山中の脇道で繰り広げられる恐怖の連続殺人劇。狂気の殺人鬼の魔手にかかり、次々に血祭りに上げられていく人々―悪夢のような夜に果して終りは来るのか?熱に憑かれたような文体で不可能を可能にした、探偵小説におけるコペルニクス的転回ともいうべきカルト的名作、ついに登場。 (あらすじ引用)


ちょっと久々の世界探偵小説全集。読みたい候補がたくさんある中、敢えてまだ眼中に入れていなかった本書に挑戦。アメリカものだという事以外は100%未知の世界。

というわけで。
なんというかかんというか、読み始めると「The・古典」という感じ。語り手である医師・リドルの手記で全編進められて行くので、面白味が薄いし地味だし読みづらいったらない。え、これずっとこんな感じなの?と思ってペラペラしてみたが、やはりずっとこんな感じっぽかった。うわ~、こりゃきついなあと思って休み休み読んでいたら、話の流れと人物関係が見えて来るにつれだんだん面白くなって来た。

そもそも、設定からしてオカルトみたいで好みには合うはずだと思わないこともない。赤い眼に裂けた耳の殺人犯というのも恐ろしいし、身近に犯人が居るのに語り手のすぐ側で次々に犠牲者が出るというのも
ふるっている。時代の産物というか、現代でこんな展開のミステリがあったら総スカンだろうなあ、と思えるぐらいおバカだ。具体的に事件の経過と人物の心理が描かれているあたり真面目だが、「これ絶対何かあるな」と思わせる貫禄はどうしたことか。

そして衝撃のラスト。古典にはあまり使わない言葉だが、自信を持って使わせてもらおう。読む前にチェックしていたレビューの「傑作」の文字を信頼して良かった。巧妙に張り巡らされた伏線が小気味良く収拾されてゆくほど気持ちの良い事はない。ああ、絶対アレがアレだと思っていたのになあ。全然当たってなかった。現代なら100%成立不可能なトリックだが、そんな指摘すら野暮だと平伏したくなるほど、自分は本書の本格バカっぷりに惚れ込んでしまった。


(257P/読書所要時間3:00)