すべてが猫になる

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チムニーズ館の秘密/The Secret of Chimneys  (ねこ3.7匹)

キャッスル旅行会社に勤めるアンソニー・ケイドは、日ごろの退屈に鬱積していた。ある日友人のジェイムズが訪れ、ケイドに重大な仕事を任せたいという。過去にジェイムズが助けた老人の正体は現在王政復活に揺れるヘルツォスロヴァキアの元首相スティルプティッチ伯爵だったのだ。伯爵は亡くなったが、ジェイムズに届いた伯爵からの小包には回顧録が入っており、ジェイムズはその原稿をロンドン出版社に届ける役目を負ったらしい。ジェイムズの名を借りロンドンへ向かったケイドだが。。。



アガサ・クリスティのミステリ作品80作のうち未読本が3冊あると以前書いたが、本書はそのうちの1冊である。本書はかの『アクロイド殺し』と同じ1952年に発表された。それまでにクリスティは既にトミーとタペンス第1作『秘密機関』、好奇心旺盛な女性・アンを主人公にした『茶色の服の男』を発行しており、実質3作目の冒険小説と言える。今までの冒険小説と大きく違うのは、やはり主人公を男性に据えたところか。主人公のケイドは若く活発な青年であるが、何か胸の内を見せない秘密をまとっている。完全なケイド視点とは言えないところも特色で、これまでとは違った雰囲気が味わえるのだ。

また、本書はヘルツォスロヴァキアの王政復古や石油利権問題に絡め、多彩な国籍の人々が登場する。はっきり言って、油断したら誰が誰だかわからなくなる。秘書、召使、刑事、探偵なども1人残らず重要な役割を果たしており、ダイアを狙う大泥棒が出現するわ迎賓館と化したチムニーズ館で王子殺人事件が発生するわのてんやわんや。ここまで詳しく書いてもまだ書き足らないほどのネタの詰めっぷりである。

これはとにかく読んでもらうしかない。どう書いてもネタバレになりそうだ。
難はと言うとネタが多すぎてまとまらない点や、誰にも感情移入出来ない事だ。しかし、それすら仕掛けやクリスティが”本当にやりたかった事”のための煙幕である。乗れないからと言って甘く見てはいけない。どんなミステリマスターでも予測が出来ない凄い真相があなたを待っている。

いやしかし、本当に。クリスティに面白くない作品なんてあるのだろうか。
ファンの皆さんは、本書をどのように位置づけているのだろう。是非聞かせていただきたいところである。

(466P/読書所要時間4:30)