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森の死神/La Mort des Bois  (ねこ4匹)

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ブリジット・オベール著。ハヤカワ文庫。

パリ近郊の静かな町。36歳のエリーズは爆弾テロに巻き込まれて全身麻痺に陥り、目も見えず、口もきけなくなった。そんな彼女がある日、幼い少女から奇妙な話を一方的に聞かされる。「森の死神」が次々に男の子を殺していると。やがて少女の話が事実らしいとわかるが、エリーズにはなすすべがない。そしてサイコキラーの魔手が彼女にも!多彩な作風とミステリ巧者ぶりで注目をあびる著者の、フランス推理小説大賞受賞作。(裏表紙引用)


ブリジット・オベール2冊目。
『マーチ博士の四人の息子』を読んだ時にあまりいい印象を持たなかったのだけれど、今読んだら違うかもしれない、と思って久々に読んでみたのがこれ。どれがいいのかわからなかったのでハヤカワ刊行順に選んでみた。うーん、これは・・・!ギョエー!(橋本知事風に)という感じでしたな。これを最初に読んでいれば今の自分じゃなくてもハマっていただろうに。

一言で言うと、オカルトのエッセンスを混ぜたミステリ。ただこれが普通と違うのは、語り手のエリーズが全身麻痺者だという事。動かせるのは片方の人差し指と頭部だけ(リンカーン・ライムと似ていますね。彼は話せるし動くのは薬指だけど)。脳と耳が健全なので、読者はエリーズに聞こえる会話と雰囲気だけで物語を追う事になる。見えないものだから、本当に怖い。エリーズを襲ったのは誰?また、エリーズに想いを寄せて恥ずかしい行為に及ぼうとしたのは?特に本書で引き立っているのは幼いヴィルジニーで、彼女が死んだ兄と会話をしているシーンが印象深い。ヴィルジニーは物語のキーパーソンで、事件の目撃者でもある。しかし、エリーズには自分が知った事を話す事が出来ない。様々なトラブルに巻き込まれるエリーズ。そして、次々と犠牲者が。。。ヴィルジニーが話した”森の死神”の正体とはーー?

というわけで、眉を顰めたくなるような陰惨な事件でありながら、めくるめく人間模様に夢中になって読んでしまった。残念だったのは、真相が明らかになるのは犯人の自白だったし、ヴィルジニーの謎もあやふやなままだったこと。多くの謎がある人物の”説明”によって氷塊していくのだけれど、雰囲気が壊れちゃったなあ。エリーズは頭の中で推理をしていたのだけれど、彼女がそれをするわけにいかないからしょうがないね。”巧者”かどうかは保留にしておくとして、ストーリーテラーとしては素晴らしかった、ということ。次は『雪の死神』がいいかな。。

                             (395P/読書所要時間4:00)