すべてが猫になる

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穴/Holes  (ねこ3.8匹)

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ルイス・サッカー著。講談社文庫。

無実の罪で少年たちの矯正キャンプに放りこまれたスタンリー。かちんこちんの焼ける大地に一日一つ、でっかい穴を掘らされる。人格形成のためとはいうが、本当はそうではないらしい。ある日とうとう決死の脱出。友情とプライドをかけ、どことも知れない「約束の地」をめざして、穴の向こうへ踏み出した。 全米図書賞、ニューベリー賞他受賞の大傑作。(裏表紙引用)


本屋に行くたびに気になっていた作品。
コミカルで楽しい成長ものだと勝手に思い込んで読み始めたら、これが意外と子供に手厳しい内容だった。犯罪を犯した少年達が集められた『グリーン・レイク・キャンプ』は、人格形成や更生という言葉とは程遠い、重労働と虐待、差別と陰謀が渦巻いたやたらと胡散臭い施設である。毎日毎日、朝の4時半の起床と苛酷な”穴掘り”を義務づけられた少年達は、穴の中で何かを発見するたびに先生への報告を課せられる。良い物を見つけた少年には、一日の休暇が与えられるというのだ。

そもそも、冤罪で収容された主人公のスタンリーには地獄のような毎日。しかし、彼は持ち前の処世術とガッツで一日一日を乗り越えてゆくのだ。ここではすべての少年に、愉快なあだ名が付いているのが面白い。それも、本名と関係のない”脇の下””イカ””ジグザグ””X線”という奇妙なものばかり。スタンリーも見事”原始人”というあだ名をいただいた。あだ名が付くという事は、仲間と認められた事と同じで、どんなヘンなあだ名であろうとそれは喜ばしい事なのだ。

(日本人が読むと、戸○ヨットスクール事件を彷彿とさせずにいられない。。。)

簡単に纏めると、冒険と友情を描いた正義の物語だが、スタンリーの先祖にまつわる挿入章が現在と密接に結びつき、ちょっとしたファンタジーではないか。命を繋ぐ大量のタマネギや穴に落ちていた口紅の筒など、小道具使いが生きていてこの作家が只者ではない事がわかる。大人でも充分読むに堪える素敵な作品。逆境に強くなれるのはきっと子供だけじゃない。

                             (330P/読書所要時間2:30)