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割れたひづめ/Mr. Splitfoot  (ねこ3.7匹)

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ヘレン・マクロイ著。国書刊行会。世界探偵小説全集44。

「あたしがやるようにやってごらん、割れ足さん!」少女の声に応えてすばやく答えが返ってきた。トン…トン…トン…。雪深い山中で道に迷ったベイジル・ウィリング夫妻が一夜の宿を求めた屋敷“翔鴉館”には、そこで眠る者は翌朝には必ず死んでいるという開かずの部屋があった。その夜発生したポルターガイスト騒ぎのあと、不吉な伝説を打ち消すため、くじで選ばれた男がその部屋で寝ずの番をすることになったが、30分後、突如鳴り響いた異常を知らせる呼び鈴の音に駆けつけた一同が目にしたのは、伝説どおり謎の死を遂げた男の姿だった。H・R・F・キーティング“名作100選”にも選ばれたヘレン・マクロイの後期代表作。 (あらすじ引用)


お馴染みとなったウィリング博士シリーズ12作目。個人的にはマクロイ2冊目だが、この時点でわたくしは既に悟った。
やはりバークリーを代表とするアンダーグラウンドで好まれる作家というのは、物語そのものが面白いのだ。クリスティやクイーン等の大御所を除く「古典の傑作」として当然知られている作品が軒並み退屈で読みづらい、正直面白いと素直に感じるものがほどんど皆無に近いと思っているのは自分だけだろうか?新世代のミステリを膨大な数読んで来た自分にとっては古典にある”画期的なトリック”や”誰もやらなかった挑戦”が本当にそうであるかどうかは先人の教えに沿うしか手段がない。もっと言えば、理論ではなく感情の域に届くような凄いトリックや論理など、古典に今更求めてもしょうがないとまで思ってさえいる。ある意味不幸なんだろう。

そこでこのヘレン・マクロイ。『幽霊の2/3』と同様、ミステリとしてのトリックには目を見張るものがない。それでも楽しめてしまうのは、事件に至るまでの経過に土地や時代そのものを映す迷信や登場人物達の巧みな描写があるからで、やれリアルだの茶番だのという気味の悪い茶々が入る余地がないから。稚拙ないたずらで捜査を乱す不良少年達や、身体の問題を抱えた大人達の芝居がかった迫力、事件発生そのものを演出する舞台装置。古き=良きの面白さがここにある。正統派古典の優れた傑作群からちょっと外れて、中途半端世代の自分の居場所を確保したような感覚だ。

                             (293P/読書所要時間3:30)