すべてが猫になる

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翳りゆく夏  (ねこ3.8匹)

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赤井三尋著。講談社文庫。

「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」。週刊誌のスクープ記事をきっかけに、大手新聞社が、20年前の新生児誘拐事件の再調査を開始する。社命を受けた窓際社員の梶は、犯人の周辺、被害者、当時の担当刑事や病院関係者への取材を重ね、ついに“封印されていた真実”をつきとめる。第49回江戸川乱歩賞受賞作。 (裏表紙引用)


2006年に文庫化された比較的最近(?)の乱歩賞作品です。
いやいや意外、何が意外って、面白かった。。。とても。ある時期からの乱歩賞はあまり評判のいいものがないイメージがあったのでナメておりました。久々に意を決して読んだ「沈底魚」がアレだったし^^;、もう乱歩賞ブランドの威光なんてなくなってしまってるんですよね。

えーと、この赤井さんですが、ニッポン放送に勤務していたという経歴があります。小説を書き始めたのも30代半ばだそうで。現在はフジテレビに転籍なさっているとか。(2006年の情報ですが)
そういうわけで、内容もマスコミの内部に少し入り込んだものとなっているかもしれません。
文章は平易で大変読みやすく、専門の方でありながら難しい業界用語などを使用しておらずありがたいですね。(雰囲気が軽いというデメリットがあるのでそこは両刃の剣ですが)気になったのは、作品を描かれている作者の年齢がはっきりわかる古い感性がちらほら出て来たことかな^^;

しかし、時効となった乳幼児誘拐事件の真相を暴くという題材に、その犯人の娘が新聞社に入社するという面白味に加え、記者、被害者、刑事、さまざまな職業の立場から物語を膨らませて行っており、読む手が止まりません。誘拐方法や真相など、斬新ではありませんが驚きました。
惜しむらくは、そうやって一人一人の人間を掘り下げて行っているのにドラマ的な波がなかったこと。
涙腺を揺さぶるものがあれば言うことなかったのにな。登場人物は決して個性がないわけじゃないのだから。

                             (454P/読書所要時間3:30)