北山猛邦著。東京創元社。
推理作家の白瀬は、とっても気弱な友人・音野順が秘める謎解きの才能を見込んで、仕事場の一角に探偵事務所を開いた。今日も白瀬は泣き言をいう音野をなだめつつ、お弁当のおにぎりを持った名探偵を事件現場へ連れてゆく。殺人現場に撒かれた大量のトランプと、凶器が貫くジョーカーが構成する驚愕の密室トリック(「踊るジョーカー」)、令嬢の婿取りゆきだるまコンテストで起きた、雪の豪邸の不可能殺人(「ゆきだるまが殺しにやってくる」)など五つの難事件を収録。 (あらすじ引用)
北山さんと言えば、くだんのメフィスト賞出身作家である。受賞作である『「クロック城」殺人事件』の出来はすこぶる悪く、二度と読むかコラーと三行半を突きつけた暗い思い出だけが脳裏をよぎる。ただ、作風だけはモロ好みだったので新刊が出るたびにチラチラと覗き見はしていた。このたび本書を手に取ったのは、米澤氏の小市民シリーズと同じイラストレーターさんによるキュートな表紙であった事、北山さんのデビュー作は何かの間違いで、あれ以来どんどん面白くなっているという噂を聞いたからである。(ほんとかな?『アリス・ミラー城』のぼろくそな書評を二回位目撃した事があるのだが^^;)
まあ、ごちゃごちゃ迷いながらびくびく読み始めたわけ。
すべて個人的感想になるが、気弱でやる気のない探偵・音野順のキャラクターは大変良いと思う。
「こ、この事件は、、、すべて僕が、、、、解き明かしてみせる、、、かもしれません」は名言だろう(笑)。「かもしれません」!!!(笑)事件現場へ手製のおにぎりやサンドイッチを持参するという草食ネタも爆笑である。しかも、探偵事務所に備品が揃っておらず、依頼人が座るのはソファーではなく座布団である。座布団!!!(笑)
トリックメイカーである北山さんの看板も決して偽りとなっておらず、すべての事件のトリックが考え抜かれ、異彩を放っているのもいい。表題作の凶器のトリックは見事バカミス認定である。密室トリックの部分が「密室談義」で挙げられるようなポピュラーな手口で、今さらこんなタブーを使うのかと不安がよぎったが。。『時間泥棒』に関しては特に言う事はないが、『見えないダイイング・メッセージ』の発想に関してはなかなか奇を衒っていて面白い。音野の兄の登場も楽しめた。賢いな兄ちゃん(笑)。続く『毒入りバレンタイン・チョコ』のトリックは実現不可能の一言で片付けてもいいか。ラストを飾る『ゆきだるまが殺しにやってくる』は秀逸。トリックを売りにする作家ならこれぐらいやらなきゃ^^そして深津さんのキャラがおいしすぎた。。。^^;;
文章的には漫画のノベライズの域を出ておらず好みではないが、故意的な気もする。読みやすいし割り切ればこういうのもアリだろう。こういうライトなミステリにありがちな「トリック、論理のゆるさ」もなく、読みごたえがある。一つ何か足りないとすれば、音野順の背景だろうか。どうして彼はこんなに消極的なのか?過去に何があったのか?という部分をチラチラと伺わせてくれれば深みが出たのではないか。連作なのだから、最終作で何かミステリ作家らしい仕掛けがあっても良かったと思う。これでは寄せ集めた5作でしかないのが勿体ない。だから一編目で楽しめた音野のキャラが、だんだん薄まって飽きて来るのだ。音野がラストでつぶやく”探偵の苦悩”もありがちに感じた。(一つじゃないな、すいません^^;)
続編は文庫にしようかな。。
(297P/読書所要時間3:00)