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グラーグ57/The Secret Speech  (ねこ4匹)

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トム・ロブ・スミス著。新潮文庫

運命の対決から3年?。レオ・デミドフは念願のモスクワ殺人課を創設したものの、一向に心を開こうとしない養女ゾーヤに手を焼いている。折しも、フルシチョフは激烈なスターリン批判を展開。投獄されていた者たちは続々と釈放され、かつての捜査官や密告者を地獄へと送り込む。そして、その魔手が今、レオにも忍び寄る…。世界を震撼させた『チャイルド44』の続編、怒涛の登場。 (上巻裏表紙引用)


前作が異常に面白かったので逆にこの続編は期待しなかったが、想像を越える面白さだった。他の多くの読者が述べているように、今回は前回とはまた全然作風が違う。『チャイルド44』が話題になったのは、スターリン体制下のソ連は「理想国家」で、そんな理想国家に殺人犯は存在しないのだという建前が跋扈し、そんな中忠実な国家の僕であった保安省のレオが妻の為に反旗を翻すというどこにも見られない物語だったからである。本作でのレオは田舎町の人民警察官として登場しており、過去にレオが逮捕した元司祭と妻との顛末が先に描かれ、この出来事が全ての発端となった物語となっている。レオには数えきれない程の罪があり、現在養子として引き取っているゾーヤとエレナの両親も、元はと言えばレオが殺したようなものだった。両親殺しの敵としてレオに心を開かないゾーヤ。レオは反省と後悔の鬼となっており、なんとかしてゾーヤとの間に愛を築こうとするが、ゾーヤからの返答はレオへの刃だった。。

筋を述べていると文字制限にひっかかりそうなぐらい濃密で怒濤の展開が繰り広げられる物語だが、今回はスターリン死後のフルシチョフ政権が舞台となっており、革命と家族愛、復讐と懺悔が全てのテーマとなっている。個性はほとんどなくなってしまったものの、エンターテインメントの読み物としては随分と読みやすく、わかりやすい一作になっているのではないだろうか。前作で挫折した人々も、是非にここまで堪えて来て欲しい。前作を読まなければなんのこっちゃわからない作品だと思うので。

キャラクターに関して言えば、レオや妻のライーサよりも、憎しみの化身となってしまったゾーヤと司祭の妻・フラエラが突出した存在だろう。復讐の果てに祖国を裏切りハンガリー暴動に巻き込まれてしまったゾーヤと、国家の支配が及ばない”ヴォリ”の頭となったフラエラ。二人を支えるものはレオへの憎しみだけ。何が正義かという言葉など、この二人の女の前では一粒の砂のようなものだ。国家という盾を無くしてしまった人々はここまで命がけなのか、死と隣り合わせなのか。やはり復讐の先に救いなどないのだ。しかし、この革命を起こしたのは間違いなく自分の為の正義を掲げ、闘った人々だと言うのが哀しい。自分が引っ掛かるのは、ゾーヤとフラエラの憎しみなくして、レオの行動は果たしてあっただろうか?という点にある。ライーサが時折見せるレオへの不信は、ここにあるのではないか。今回極寒の収容所で地獄の苦しみを味わい、気丈に立ち向かったレオには大きな進歩を認めるが、これではまだ納得出来ない自分がいるのだ。

噂によると、どうやら三部作らしい。
レオは再び殺人課へ戻るのか?家族はどうなるのか?今回、残念ながら死んでしまった最愛の彼の為にも、最終作には大いに期待をしたいところである。

                             (738P/読書所要時間6:00)