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魚神  (ねこ4匹)

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千早茜著。集英社

生ぬるい水に囲まれた孤島。ここにはかつて、政府によって造られた一大遊廓があった。捨て子の姉弟、白亜とスケキヨ。白亜は廓に売られ、スケキヨは薬売りとして暗躍している。美貌の姉弟のたましいは、惹きあい、そして避けあう。ふたりが再び寄り添うとき、島にも変化が…。第21回小説すばる新人賞受賞作。 (あらすじ引用)


う~ん、素敵な作品に出逢ってしまった。
べるさんの所で紹介されていた作品です。とても良い書評だったのと、妖艶な表紙と”スケキヨ”に惹かれて早速手配しました。

艶かしさと幻想的な島の存在が見事にマッチした、魅惑的な作品。
「獏」が夢を食べてしまうという迷信が蔓延し、夢を見る事のない島の人々。ヘドロの臭いが染み付いた島の人々は子供の頃から生活が苦しく、遊女が産み落とした子供らもまた遊女として売りに出されてしまう世界。主人公である”白亜”と”スケキヨ”は、捨て子ながらもその容姿の美しさで将来を嘱望されていた。姉弟のように育った二人の絆は深く、お互いを慈しみながら幼き日を共に生きてゆく。月日が流れ、先に陰間として売りに出されたスケキヨと、長じて遊郭の顔となった美貌の白亜。二人は長い年月を顔を合わせる事もなく、ただ運命のままに流されて。。

厳しい生活を余儀なくされた遊女達や、”本土”の富裕層の客達、遊郭を管理する男達、白亜とスケキヨを見守る舟渡し。登場人物は決して少なくなく、それぞれが本土への憧れを胸に、縛られるだけの人生を憂いながら絡み合ってゆく。弱い者と強い者、境遇は明らかながらもはっきりと正義の区別なく、強い者は強い者なりの葛藤、弱い者は弱い者の反逆が描かれ、掘り下げられているのが良い。
舞台が孤島の遊郭だけにストーリーはかなり辛いものとなっているが、一見ゆるゆるとした混沌とした文体が非常に艶かしく妖しく、美しい。淡々とした流れを一貫させるのでなく、小さな世界を揺るがすような陰惨な事件や、切り裂かれた哀れな人々の成れの果てまでもを描き、見せ場を作っているあたりはとても新人とは思えない。所々もっと違う言葉が欲しかったなと思わせる箇所があるにはあるが。

ストーリー自体が凄く面白いというものではないが、発想と雰囲気で勝利した作品だと言えよう。スケキヨの内面などはもっと描き込んでくれても良かった。ラストは好きずきだと思う。自分はこのすっきりしないあやふやさを残したところにセンスを感じる。

キャラクターでは”剃刀男”蓮沼と、舟渡しの蓼原が非常に気に入った。島を牛耳る男と底辺を生き操られる男。双方の全く表現の違う”優しさ”と”悲しさ”には胸を打たれた。
万人にお薦めとも言えないが、個人的には多くの人に読まれて欲しい。古代の妖怪伝説や発展途上の暮らしの雰囲気、どろどろとした妖艶なお話がお好きな方はぜひ手に取ってみて下さい。

                             (259P/読書所要時間2:00)