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追想五断章  (ねこ3.5匹)

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米澤穂信著。集英社

古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。 (あらすじ引用)


米澤さんのノンシリーズ新刊。
読者の要望に応えての、”大人向け”小説という事らしいです。語り手は大学生の青年と若いですが、実質的な主人公は北里可南子の父親である”叶黒白”という素人作家ですね。ぶっちゃけるとオッサンの秘密に迫る、というテーマなので今までの米澤作品の中では異色と言っていいでしょう。思い出してもコレに近いイメージの作品が無いので。

平成4年よりは古いように感じさせられます。バブル後の就職難に苦労する青年を描いているのですが、廃れる前の古本屋という設定のためか、雰囲気は古風ですね。これは作者を伏せられると米澤さんだとは思わないかも。自分なら、国語表現の多彩さやミステリ的な押し出しの薄さから北村薫さんの作品かと思ってしまいそうです。実際は泡坂さんをお手本にされたそうですが。

この作品の特徴は何と言っても挿入される五つのリドルストーリーですね。
最後の一行だけ排除された五つの短編が紹介されますが、どれもすぐに結末が明かされてしまいます。
どれも、これだけを集めて一冊にしても売り物になりそうな出来で、本編よりも楽しめました。本編で
22年前の殺人容疑事件の謎が明かされますが、芳光と可南子の描き方も渋く大きくは仕掛けなかった模様。筆を滑らせることなく、冷静に描き上げた印象ですね。

新境地というのも間違っていないとは思いますが、成長してこういうものも描けるようになった、というケースとは違い、米澤さんなら元々これぐらいのものは描けたでしょうね。文学的な領域に進むなら
若手の中では1番モノになっていそうな感じがします。一ファンとしてはこの作品はかなり物足りないですが。次はもっとヒリッとしたものも読みたいな。

                             (236P/読書所要時間2:00)