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毒蛇の園/A Garden of Vipers  (ねこ3.7匹)

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ジャック・カーリイ著。文春文庫。

惨殺された女性記者。酒場で殺された医師。刑務所で毒殺された受刑者。刑事カーソンの前に積み重なる死?それらをつなぐ壮大・緻密な犯罪計画とは?緊迫のサイコ・サスペンスと精密な本格ミステリを融合させる現在もっとも注目すべきミステリ作家カーリイの最新傑作。ディーヴァー・ファンにお奨め! 解説・法月綸太郎 (裏表紙引用)


法月綸太郎氏絶賛。サイコ+本格ミステリ。戦慄&驚愕の複合攻撃。』
『意外な動機、意外な犯人、大胆な伏線。ジェフリー・ディーヴァーマイクル・コナリーの座を狙う今もっともスリリングなミステリ作家ジャック・カーリイを読め。』

ジャック・カーリイはすべ猫で一発目に登場した海外作品である。けっこうボロクソに書いたよね、ってな中身は別にして、空前絶後バカミスとして初登場にふさわしく、かつ思い出の作品なのであった。とりあえずあの衝撃だけは心の引き出しにしまい込んで、あまり反響もなさそうなマイナー作家だしもう読むつもりはあまりなかった。
そこでこの帯である。サイコ+本格ミステリとして本格推理作家が絶賛、という事ならもう一度試してみるのも悪くないと思った。


そして読了。
この帯は過剰宣伝だったね。
これを本格ミステリとして称賛することに激しい抵抗がある作品で、どう読んでもサイコミステリーか、サスペンスとしか思えなかった。吹雪の山荘でないからとか探偵役がさてと言うスタイルではないからではない。巧みな伏線とやらも、計算しつくされた配置とやらも、まったくピンと来なかった。本格ミステリが持つべきフェアな情報提示、読者の目を欺くミスリード、稚気溢れるトリック、他の可能性を排除した物証にも値するロジック。何より、夢が夢でなくなった瞬間の魔法のようなあのトキメキを与えてくれずにどこが本格だろうか。


以上、「帯の」批判終わり。この作品自体を貶めたいのではない。
本書は「カーソン・ライダー」シリーズの第三作。二作目をすっ飛ばしてしまった自分の実感で言うと、順番通りに読んだ方がいい^^;。キャラクターの人間関係の推移や主人公の背景などなかなか複雑で、物語としては独立しているものの若干入り込めない箇所がなきにしもあらず。
事件そのものは陰惨、残酷で、刑事含む登場人物達もそれぞれに脛に傷持った怪しさがあっていい。
特に名家のキンキャノン一族は”Yの悲劇”を彷彿とさせる胡散臭さである^^;。刑事サイドにも主人公と敵対したチームが存在していてドラマを盛り上げる。
身体をはって事件捜査にあたるカーソン、恋に破れ荒れるカーソン、なかなかに母性本能をくすぐるヒーローである。一匹狼の器ではないが、イカした相棒・ハリーと共に冷静に真面目に事件の糸をほぐして行くタイプで、コンビごと好感が持てるのもいい。タイトルである「毒蛇の園」の意味についてはなかなかショッキングで、このあたりは刑事ものにはあまりないセンスかもしれず気に入った要素。
しかしヒロインであるディーディーは駒にしか使えていなかったし、カーソン自体も勝手に一人歩きして行くような広がりに欠ける。犯人や動機の種類に関しても、一作目と同じ轍を踏んでいるような。結局はディーヴァーの凄さを再確認した。しかし、商業的な意味でも、ディーヴァー&コナリーを引き合いに出したのは間違いではないかもしれない。少し違う個性を持っているけれど、狙う読者層は正解だと思うので。今の段階では厳しいが、いずれは「ジャック・カーリイが絶賛した!」と書かれるような地位を確立してもらえればと思う。

バカミスは一作目だけだった模様。やっぱり真面目にアレ描いてたんだ、と思うとますますバカミス
認定度アップ^^;

                             (462P/読書所要時間5:30)