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水銀虫  (ねこ3.6匹)

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朱川湊人著。集英社文庫

17歳を目前に自殺した姉。明るく優しい性格で、直前までそんな素振りはなかったのに、なぜ…背後には、死神のような女生徒の姿があった(「はだれの日」)。孫を交通事故で亡くした祖母。断ち切れない愛情と悲しみが、孫の幼友だちをおぞましい事件に巻き込む(「虎落の日」)。惨劇の陰には、人の心を蝕む「水銀虫」の存在が。取りつかれ、罪を犯した人々の、悪夢のような一日を描いたホラー短編集。 (裏表紙引用)


大好きな朱川さんの最新刊文庫。こちらの作品はキモイとの事で(笑)あまり期待しないで読みましたが、それなりに楽しめました。朱川さんの作品カラーである郷愁や短編好手ならではのキレは控えめで、どちらかと言うと現代ホラーに近かったと思います。

『枯葉の日』
女性の幽霊につきまとわれる主人公。二人の関係性というものを今までにない繋がりで表現しています。特に、ラストはよく読んでじわじわと読者に意味を伝えて来るというテクニック。

『しぐれの日』
知り合いになった優しいお姉さんの家に遊びに行く事になった少年。隣から聞こえる不気味な声と、お姉さんの恋人であるお兄さんの奇妙な明るさがとても効果的ですね。ある程度怖い想像をしていましたが、二人の恋人に隠された秘密がさらに物語を意味のあるものにしています。

『はだれの日』
姉が自殺してから、主人公の家庭は少しずつ壊れはじめた。。主人公の告白調で綴られる犯罪物語です。姉が死んでから、何が一家に起こったのか?主人公が殺人を犯したのはなぜか?時系列を逆行して語られる事件の経緯がスリルあって良いですね。出来れば、ラストにちょっと違う捻りも欲しかったかな。

『虎落の日』
孫を亡くした友人の家へ、自身の孫を連れて訪問した富士子。。ホラーなら避けて通れない、ほにゃららズムの登場です^^;うえ~。おえ~。なんとなく、そろそろホラー界でもネタ切れっぽいよね。朱川さんでも定番の筋で描くぐらいだから。・・と思って読んでいたけど、富士子の行動には唖然。なにもそこまで^^;;

『薄氷の日』
クリスマスの日、奈央は恋人と最高の一日を迎えるはずだったが。。過去に酷いイジメをしていた奈央の回想が強烈です。被害者は一生を台無しにされ、当の加害者はそれを忘れて幸せになろうとしている。許せませんね。。これは少し「世にも奇妙な話」的。朱川さんと言えば初期の「昨日公園」が実際に「世にも」でドラマ化しておりますが、日常を異常に映し変えるのが上手い作家さんです。

『微熱の日』
お堂に集まって不良行為を働く少年二人に、もう一人別の少年が加わった。。ぐええ~^^;このお話が1番強烈です。子供の残酷さを描いたものかと思いきや、神か悪魔の悪戯という感じがします。精神錯乱で片付けられないのがホラー。少年達は一体何を吸っていたのでしょう^^;

『病猫の日
大学図書館の総合部長である主人公には、鬱病の妻がいた。。世の全ては男が悪い、と言いたくなりますね^^;ラストにミステリ的な真相があって、作風の幅広さを感じさせます。


以上。
今までの朱川作品にはまったく及ばないのが残念ですが、それでも「このレベルで作者の水準以下」というのが凄いと思います。全ての作品に水銀虫が登場し、一貫性を与えているのもさすが。さくっと読める読みやすさもいいですね。それでも直木賞作家なのに知名度が低いのはジャンルの宿命か。。最近は普通文学にも果敢に挑戦されているようですが、あまり食指が動かないんだよね^^;

                             (291P/読書所要時間2:30)