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茶色の服の男/The Man in the Brown Suit  (ねこ3.8匹)

考古学者の父を亡くしたアンは、天涯孤独の身となった。失意のアンがやがて目にしたものは地下鉄での転落事故。アンと同時に現場に遭遇した医師が落とした一枚の紙片が、アンにある疑惑を起こさせたのである。後に貸家で殺された一人の女性と、容疑者の”茶色の服の男”が転落死と結びついた時、アンの胸にくすぶる冒険心に火がついた。事件解決に向けて、アンは南アフリカへと旅立つが。。。


この作品は20年程前に一回読んだきりなので、内容も自分の感触すらもアンドロメダ星雲の彼方。というわけでまるで初読のように感想を書かせていただきましょう。クリスティで一回しか読んでないのって珍しいんですよ。当時あんまり気に入ってなかったのかしら。。

クリスティ4作目はポアロでもマープルでもなく、ノンシリーズの冒険小説。自らも冒険に憧れを持っていたというクリスティらしく、生き生きとした明るい仕上がりとなっております。主人公のアンは明るく陽気で、好奇心旺盛で行動家の魅力的な若い女性。初期タペンス(参考:『秘密機関』)とキャラがかぶりますが、タペンスにとってのトミーのように彼女を止める相手がいないので(笑)暴走度もかなり高し。探偵ものではないものの、クリスティらしく謎解きに重点が置かれ、悪人か善人か敵か味方かを見抜く面白さも加わってスリル満点。

冒険ものとしての軽さも納得の出来で、騙され縛られたアンの部屋にちょうどうまいことガラスの破片が落ちていたり(笑)、崖から落ちても引っ掛かって軽傷だったりと大変ご都合がよろしいです^^
さらに、女史お得意のロマンスが本領発揮!このあたりが女性読者としては楽しみの一つで、アンがお相手として選んだ男性がこれまた上手いんだわぁ^^男性作家ならこうはいかないと思う。女性がどういう男性に惹かれるか、ちゃんと分かってますよね。このベタベタな恋愛要素の顛末も、ゆきあやの嫌うハードボイルドなら絶対御法度。ツボにぎゅんぎゅん入るぜ~v

ちょっと解説から引用しましょうか。「十代の女性なら共感しまくり」の作品だというのはわかります。まあ、25歳も過ぎれば女性は現実的になって、選ぶ男も変わってくるもの。冒険に心躍らせるなんて若いうちの特権ですよね。(一般的な意見として)
しかし、十代の自分よりも34歳の自分の方がドキドキして読めたというこのケースは一体。。自己分析すると、とにかくクリスティに本格を求めていた自分と、雑食となった今の自分の器の広さ?がそういう結果を生み出したのでしょうかね。。

話は変わりますが、この新装版。サイズが大きいので、先日旭屋書店でもらったビニールのカバーか
昔しら菊姐さんに頂いた”文庫之助”しか使えない。そして字が大きくて訳が読みやすいのはいいのですが、「鷹揚」とか「時々」とか「二人」とか、漢字で表記してもいいだろうと思う文字がことごとく平仮名なので、その分ページ数が増えているのだ、きっと。。(何が言いたいかって、きっとその分高くなっているからです)まあ、そろそろ新装版が古本で出回る頃なのでいいけど。。


※角川文庫「茶色の服を着た男」
創元推理文庫「茶色の服を着た男」