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龍神の雨  (ねこ4.8匹)

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道尾秀介著。新潮社。

人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。最注目の新鋭が描く、慟哭と贖罪の最新長編。 (あらすじ引用)


道尾さん待望の新刊。動物タイトルシリーズ、今回は”龍”です。
いつになく丁寧に読みました。これでも道尾さんの本は「向日葵」以外全部買っているのです。「シャドウ」「ソロモンの犬」「ラットマン」等々、散々不満を挙げ道尾氏を絶賛するファンの方々を横目に「そんなに面白いか?」とか言いながら読んでいましたが、今となっては自分に見る目がなかったと言わざるを得ません。
面白い。本当に最近読む道尾作品は面白い。
とは言え、登場人物が好みではない、共感出来ないというどうしようもない理由がちゃんとあったわけで、本作については全くその点問題はありませんでした。

この物語は、あるよく似た境遇を持つ二つの家族にスポットをあて、視点を変えながら展開して行きます。酒屋でアルバイトをする兄と、中学生の妹。両親は亡くなり、義理の父親と一緒に暮らしています。兄妹は家に籠り切りの父親を嫌悪し、殺意すらおぼえているのです。一方、辰也と圭介の幼い兄弟も両親を亡くしています。こちらは義理の母親と暮らしていて、兄の辰也は継母にことごとく反発しているのです。この二つの兄弟は家が近く、台風が接近してから徐々に接点が出来てくるのです。

人はどこまで最悪になれるのか。罪のなかったはずの、平凡だったはずの兄弟たちが若いみそらで究極の不幸へ進んで行く様がたとえようもなく息苦しい。それがすべて雨の降りしきる中で展開して行く為に、雰囲気作りという言葉だけでは済まない、運命のような無表情感すらもここに作り出しているのが凄いのです。だって、守ってくれるべき両親がいない彼ら子供に、一体他にどう抗えば良かったというのでしょう。その彼らの過ちが、ミステリ作品としてミスリードを成功させ、家族愛という究極のドラマ性を紡ぎ出していると言っても過言ではないでしょう。暗黒版『重力ピエロ』と言えるかな。
今までの道尾作品よりはサプライズは薄めかもしれませんが(自分は驚いたけど)、好みで言えばこの作品が1、2番に好きです。

さて。
今、たぶん、一番好きな作家です。このヒット率は異常だと思う。伊坂幸太郎東野圭吾などと張るカリスマ作家になるまでにはまだまだ道尾氏は若いけど、今の時点でこれならもう越えてるんじゃないかと思う。別にドラマ化や映画化がそのバロメーターになるわけじゃないので、あしからず。