すべてが猫になる

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心地よく秘密めいたところ/A Fine and Private Place (ねこ3.5匹)

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ピーター・S・ビーグル著。創元推理文庫

「ぼくは死んでるんです」マイケルは言った。「分かってますよ」レベック氏はやさしく答えた。ここはニューヨークの巨大な共同墓地。彼は十九年もの間、死者たちの話し相手としてここに暮らしてきたという。孤独に怯える彼らが、何もかも忘れて漂い去っていくのを見送りながら……。生と死の間をほろ苦く描く都会派ファンタジー。著者がわずか十九歳にして世に問うた永遠の名作。(裏表紙引用)


エエエ~~~~~っ!!^^;;;;十九歳!?
ちょっとこれは乙一の十七歳よりショッキングかもしれない。この若さでこれだけの哲学的要素と、柔らかくリズムの良い優れた文章、世界を創れるもんかぃ?哲学うんぬんについては若いからこそ、と言える部分があるのかもしれないとしても、言葉の言い回しとか雰囲気、そのセンスは完全に成熟したベテラン作家のもの。加えて、フレッシュな要素が漂っているからタイトル通り本当に読んでいて心地いい。ストーリーはそれほど無いと言ってもいいくらいなのだけど。

主要な登場人物は4人。メインでは唯一の生者で、なぜか墓地で暮らし鴉に食事を与えられ死者と会話が出来るレベック。その彼と墓地で出会ったモーリス。彼女は夫を一年前に亡くしている。そして交通事故で死んだローラと、妻に毒殺されたというマイケル。生と死について彼らは語り合う。生前彼らと深い関わりを持った人間達について想いを綴り、死者としての存在意義について葛藤する。
それが決して退屈にならないのは、時に滑稽に反発し合うレベックとモーリス、愛について語り合ううちに惹かれ合うようになるローラとマイケルの会話と、墓地に訪れる人々のふとしたドラマに生命を感じ、墓地と死者との関係を問いつめるという劇的な展開から目を離せなくなるからだと思う。

あまり自分のストライクゾーンではなかったけど、吸引力のある不思議な作品でした。