すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ルート350  (ねこ3.6匹)

イメージ 1

古川日出男著。講談社文庫。

知的早熟児たちが集った夏期講習キャンプに現れた「狙撃手」。僕たちは次なるスナイプの現場を押さえるべく監視を始めた―「メロウ」など、現実とレプリカのあわいに立ち上がる圧倒的なストーリー世界が心を捉えて離さない。あらゆるジャンルを超えて疾走する作家が綴った唯一の「ストレートな」短篇集。 (裏表紙引用)


凄い作家さんだという認識はしているけれど、完全に古川ワールドを理解しきれない、だけど読まずにいられない不思議な魅力を放っている古川さん。著作を全て網羅していないのだけど、自分は比較的わかりやすい作品ばかり手に取っている気がする。その中でも、突き放され感が強い作品が半分近く収められていたこの短篇集。さて感触はいかに。

『お前のことは忘れていないよバッハ』
ゲージから脱出したハムスターと、3軒の家族模様。ハム(バッハ)の出現場所を世界地図に例える場面が好きでした。設定のリアリティを解くのではなくて、文章間の不条理を楽しむ作品かもしれません。一番理解しやすく、好きな作品でした。

『カノン』
1983年に出現した東京の王国。
主人公達が子供である事が重要な物語だと思います。現代と比較してこそ成立する世界なのかな。

『ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター』
幽体離脱?した少年が、級友3人の意外性を発見して展開して行くお話。これも伝わりやすく人間の面白さを追求した良い作品ですね。二番目に好きかな。

『飲み物はいるかい』
3億年前からここにいる、という少女。主人公とのやり取りで進んで行きます。これまた不思議な世界を作り出していますね。文章での遊びを心地よく受け止められるかどうかがミソ。

『物語卵』
これはちょっと物語世界を把握しづらかったです。設定は昭和54年で、多重人格者の少年が語るお話という感じでしたが。

『一九九一年、埋め立て地がお台場になる前』
封鎖された13号埋め立て地が舞台。ドラッグ、予知夢、解放。様々なキーワードを元に暗黒的な世界が広がって行きます。ここまで行くと、解説してもらうより文章のノリを脳内に取り込んだ方がいいかも。

『メロウ』
「さようなら」という一行で始まる子供達の物語。乳児死亡率の低くなったパラレル日本で子供たちの戦争が始まる。彼らが死体というものをどう捉えているか、という視点で読むと深いかもしれない。

『ルート350』
わずか4ページの掌編で、二人の主人公の関係や未来、過去を表現しきっている凄い作品だと思います。


以上。
置いてけぼりになった作品もありましたが、それが「残念」だという作風ではないので気にしません。
文章のリズムを楽しめればお得なのでは。万人受けは絶対しない作家さんですが、発想、文章力ともに発達していて、いかにも「小説家」だなあ、と思わせる作品集。