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鼓笛隊の襲来  (ねこ3.8匹)

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三崎亜記著。光文社。

戦後最大規模の鼓笛隊が襲い来る夜を、義母とすごすことになった園子の一家。避難もせず、防音スタジオも持たないが、果たして無事にのりきることができるのか―(「鼓笛隊の襲来」)。眩いほどに不安定で鮮やかな世界をみせつける、三崎マジック全9編。『となり町戦争』の著者、1年4ヶ月ぶり待望の新刊。 (あらすじ引用)



はふぅ、良かったですぅ~^^
『バスジャック』を読んだ時は、好きなジャンルだけどあと一つ何か足りないような感触が拭えなかった三崎さん。今回はその印象がほとんど払拭出来たのではないでしょうか^^読者を置き去りにしすぎる感がありましたが、表題作以外は読後こちらの空想が広がるというか、きっちり十数ページに閉じ込められた世界というものが確立していたように思います。

特に好きだったのは、2編目の『彼女の痕跡展』。
自分がかつて所有していた物の展示会って見に行きたいですね。自分だったら売ってしまったあの本とかCDとか、昔よく着ていたブランドとかになるのかなあ。誰だかわからない恋人という設定も不思議で良かったです。

『覆面社員』
覆面を被る権利、ってなんじゃそれ(笑)美人キャスターがTVで覆面を被って出て来たらびっくりするよね^^;覆面、っていうのはある種の喩えであって、こういうリセット願望はあちらこちらで見つかるかもしれませんね。

『象さんすべり台のある街』
人と人の繋がる場所の象徴が公園だと言う事でしょうか。寂しい印象ばかりを受けるお話ですが、便利さと同時に失ってしまったものに主人公は気付いているのでしょうね。

『突起型選択装置』
ボタン付きの女性というのが出て来ます。これは自分の考え過ぎかもしれませんが、生まれや外見などによる差別を示唆したもの?

『「欠陥」住宅』
同じ家に暮らしながら、一生会えなくなった夫婦の家。
これはちょっと自分にはちゃんと読み取れなかった。感じるものはあったのだけど、言葉として何も出て来ません。ドラえもんの道具にこういうのあったよね。。

『遠距離・恋愛』
うわっ、照れくさい^^;;
浮遊都市で働く男性と、地上で暮らす女性のラブストーリー。女性が仕事辞めればいいだけの話では、と思ったわたしは酷い?^^;

『校庭』
いじめ問題が下敷きにあるのかな、と最初思いましたがそれだけではありませんね。実際、自覚なくこんな風に生きている人々っているのかもしれない。。気付かない方が良かったです。

『同じ夜空を見上げて』
消失してしまった列車に乗っていたはずの恋人。新しい彼が出来ても、失ってしまった恋人の存在は打ち消せない。。数年前現実に起きた列車重大事故を思い起こしてしまいました。誰しもがこんな風に生きて行けるわけではないですよね。でも、いい作品でした。


すべて有り得ない虚構の世界で織り成す人間模様です。
設定を説明でなくサラリと溶け込ませてくれる手腕がお見事。次はどんな手で来るかワクワクします。一見ほのぼのとした文体でありながら、現代社会を見据えた題材を含んでいるのが凄い。この作家さんは短編集が好きですね^^