すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

海神の晩餐  (ねこ3.8匹)

イメージ 1

若竹七海著。講談社文庫。

氷川丸一等船室から、タイタニック号沈没の際持ち出された謎の原稿が盗まれた。原稿に隠された暗号に気付いた高一郎の周りで、金髪美人の幽霊出現、死体消失、殺人未遂騒動など、次々と起こる怪事件。香港~横浜~バンクーバーまでの航海中の船上を舞台にくりひろげられる著者渾身の本格長編ミステリー。(裏表紙引用)


プロローグ1912年~香港(1932年)~、上海、東京と時代が経過し視点も変わって行くので苦戦しそうだな、と思っておりましたが。高一郎(主人公)が登場し、友を頼ってバンクーバー行きの船に乗り込んでから俄然面白くなります。国籍や年代の様々な人々が次々登場し、かつてタイタニック号で没した有名作家の原稿の真偽について議論が始まったり、高一郎とサラとの付かず離れずの恋が生まれたり、乗客同士の喧嘩が頻発したりと退屈させません。乗客の子供であるミチオの日記がさりげなく挿入されるあたりも作者の”計算”がほの見えますね。

幽霊騒ぎや原稿紛失の真相暴きも意外性があって、さらに犯人を糾弾するシーンでは小道具をうまく使って緊迫した雰囲気を醸し出しています。長旅が終わり、それぞれが自分の道へと再出発して行くラストも感動的。特に、はじめは憎たらしかった人物の意外な一面や、ある友情の復活、乗組員や給仕達との心の繋がりまで出て来るあたり完成度の高さが伺えます。

エピローグについてはどうでしょうか。
史実に基づいた作品だと言う事を思い出させてくれるこのラスト、若竹さんだったら当然、という事でしょうか。