すべてが猫になる

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ステップファザー・ステップ  (ねこ4.3匹)

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宮部みゆき著。講談社文庫。

中学生の双子の兄弟が住む家に落っこちてきたのは、なんとプロの泥棒だった。そして、一緒に暮らし始めた3人。まるで父子のような(!?)家庭生活がスタートする。次々と起こる7つの事件に、ユーモアあふれる3人の会話。宮部みゆきがお贈りする、C・ライス『スイート・ホーム殺人事件』にも匹敵する大傑作!(裏表紙引用)


YAだったのですね。普通に違和感なく自分の目線で読んでしまった^^;
これは大変気に入った。双子の飄々とした佇まいもさることながら、分割法で喋る哲と直の会話が見事ツボにはまってしまった。読みやすいんだか読みにくいんだか(;^^A。。
駆け落ちをした両親という状況の真偽も定かでなく、遺棄児童という境遇の深刻ささえもサラッと流されコミカルに描かれて行くこのリアリティのなさがかえって物語を生き生きと見せてしまうのはやっぱり宮部さんの力だと思う。あまり背景が克明にならない主人公の”お父さん”が、覚え始めたばかりのワープロで必死にこの物語をタイプしているのだと思うと微笑ましい。

それぞれの作品のミステリとしてのレベルは並の上、くらいだとは思うがあまりそこは気にならない。なぜか多くの謎を残したまま、あたたかい雰囲気で収束を迎えるこの作品。彼が双子に愛情を注ぐようになる事は自明の理で、その過程がしっかりしているのでこれはきちんとした完成品なのかもしれない。信頼関係には時間がどうしても必要だから。
彼ら3人の孤独が導いた関係なのだから、これがいつまでも続かない事も世間体として正しくない事も知っている。時間を切り取って、どの未来から書き綴られた場面なのかは分からないけれど、それが幸せな場所から描かれた事だけは分かる。ここから伝わって来る脆さも小憎らしさも、どこからも愛情が
立ち上って来るのはきっとそう思っていいんだろう。