すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ホームタウン  (ねこ3.4匹)

イメージ 1

小路幸也著。幻冬舎文庫

札幌の百貨店で働く行島征人へ妹の木実から近く結婚するという手紙が届いた。両親が互いに殺し合った過去を持つ征人と木実は、家族を持つことを恐れていたにもかかわらず。結婚を素直に喜ぶ。征人だが結婚直前、妹と婚約者が失踪する。征人は二人を捜すため決して戻らなかった故郷に向かう…。家族の絆を鮮烈に描く傑作青春ロードノベル。 (裏表紙引用)


東京バンドワゴン』の原点ということで、あったかいほのぼのホームドラマかと想像しながら読んでみたが意外にもミステリ色が強く、内容も重たい要素があった。殺人犯の両親がいる兄妹の身に起きた
二つの事件。主人公である兄の征人は大手百貨店の<特別室>に勤務し、自らも殺人者であると悩みながら生きている。このあたりの葛藤は読んでいて現実味があり、彼の過去のアルバイトや関わって来た人々の個性も面白い。プロローグで登場する彼の下宿先のおばあちゃんがさらに物語の雰囲気作りに大いに貢献している。少ししか出番がないのにこれは凄いぞ。

ただ、若干設定は現実離れしている感がキツい。小路さんの作品にかかったら、世の中は善人しかいないのではないかと思ってしまう。そういう点が実は苦手な要素だったのだが、文章が平易な割に自分にはこの作家さんの作品は読みにくいのだ。通常の倍ほどの時間がかかってしまうのでどうしたことかと思っていたら、本当の理由がなんとなく判明した気がする。はっきり言って苦しみを抱え乗り越えた人々が血の繋がりをも越えて団欒を迎えるエンディングは好みではない。今回はそれよりも木実ちゃんの歩んで来た切実な人生が胸に響いた。兄の征人も相当の苦労人だが、妹の方が若いし女性なので重みがさらに加わって伝わって来たのだと思う。

なんだかんだ言ったけれど、4冊読んだ中では一番面白さを感じたかも。