すべてが猫になる

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女王の百年密室  (ねこ3.7匹)

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森博嗣著。新潮文庫

2113年の世界。小型飛行機で見知らぬ土地に不時着したミチルと、同行していたロイディは、森の中で孤絶した城砦都市に辿り着く。それは女王デボウ・スホに統治された、楽園のような小世界だった。しかし、祝祭の夜に起きた殺人事件をきっかけに、完璧なはずの都市に隠された秘密とミチルの過去は呼応しあい、やがて―。神の意志と人間の尊厳の相克を描く、森ミステリィの新境地。 (裏表紙引用)


これはなかなかファンタジー風味でよろしかった。ミステリーとうまく融合出来ていて、どちらも中途半端感がない。”死”という概念がなく、完全に世界から独立し、法律も成り立たない国(?)に迷い込んだ日本人のミチルの混乱がうまく書けているし、適応するべき点とそうでない点を問題視することによって物語を盛り上げている。全てが上手く行っていると朗らかに謳いながら、どこか胡散臭さを感じさせる雰囲気。それが中盤から起きる王子殺害事件の不可解さを増幅させている。
前作『そして二人だけになった』を本格ミステリだと思い最後に大コケした自分なのであまりミステリ的な要素は期待しなかったが、謎の日本人マノとの対決が絡み、サスペンスに富んだ内容が加わってこれがなかなか楽しめた。動機の追求と犯行方法の可能性をたった一人異文化の中推理して行くミチルはいっぱしの探偵気取りでかっこいい。それでいて、捨て身でありながら捨て鉢な所がないミチルはやはり自分が主人公になるためにこの世界に迷い込んだ選ばれたキャラクターだ。

作風はやはり森博嗣らしさがそのまま出ているので好き嫌いは分かれるだろうが、一概に”雰囲気を楽しむ”だけとは言えないこの物語の強さは見逃してはいけないと思う。
続編があるので楽しみだ^^