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ロードムービー  (ねこ3.9匹)

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辻村深月著。講談社

『冷たい校舎の時は止まる』から生まれた珠玉の短篇集。ほろ苦くも優しい辻村ワールドへようこそ。
一緒に迷って、一緒に泣いてーー 早く大人になりたい、と思った。(帯引用)


辻村ファンをやって来て良かったなあ。そう心から思えた一冊。
メフィスト賞受賞作『冷たい校舎の時は止まる』の続編という事ですが、続編というより番外編、外伝と言った方がいいと思う。登場人物がそれぞれ『校舎』とリンクし、彼らのその後や過去に繋がっているのでファンには嬉しい内容。ただ、『校舎』を読んでいないと意味がわからない、感動が伝わらない内容ではない。一話一話が独立して一つの世界を演出しているので、いきなり本書から入っても損をしたという事にはならないと思う。逆に、これの後に『校舎』を読むというのもいいかも。
(個人的には絶対両方読むべきだとは思った)

とにかく一編目の『ロードムービー』に痺れまくった。小学生の家出と、優等生の選挙闘争。優秀であるが故にクラスからつまはじきにされるトシと、親友のワタル。二人をそこまで追い詰めたのは一体何か?トシとライバルのアカリの対決は子供とは思えぬギリギリの闘いで、ハラハラして手に汗を握ってしまう。何があってもトシから離れないワタルは頼りなく弱々しいが、彼の強さにはラスト誰もが涙するだろう。辻村さんらしい仕掛けもアリ(実はおいらは最初に気付いたv)で、文句無しの傑作。

表題作だけなら4.5~の評価だったが、後の二編は程良くなかなか、という感じ。(たぶん表題作が良過ぎてくすんでしまったか。。)
『道の先』
塾の講師のアルバイトをする吉野は、誰もが一目置くお嬢様、大宮千晶に好意を持たれてしまう。彼女は気に入らない講師が来たら首にしてしまうという趣味があった。。
年齢差ゆえに消極的な吉野が、真剣に千晶と向き合おうとするその心の動きがいい。自分自身の経験を踏まえて諭すその台詞の一つ一つに命があり、人生の先輩として過去を自分の現在に投影してくれる。

ラスト『雪の降る道』。
ファンサービスが一番大きいのがコレかな?ここにも懐かしいあの人やあの人が登場。
優しい気持ち、意地悪な気持ち、そしていなくなったあの子。切ない切ない小さな子供の小さな胸が感じた大きな気持ち。ほっこりじんわりの良作。


初の短篇集という事で楽しみにしていましたが、期待以上の作品。こう言っちゃなんだけど、いつものような無駄がないだけに良さだけが残った感じ。個人的には辻村さんに限らずリンクにこだわった作品を好みとしないので、出来ればもっと色んな人が気軽に手に取れるように完全に独立させても良かったのじゃないかな、と。それは作者のこだわりなので口を出すところではないのだけど、作品がそれぞれ良いので新キャラで作っても十分成り立ったと思う。何が言いたいかというと、面白いので早くみんなに読んで欲しいのだ。恐怖の上中下巻『校舎』が未読なので今読めないよ~、っていう読者が周りに多すぎるのよ^^;