すべてが猫になる

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夜の光  (ねこ3.8匹)

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坂木司著。新潮社。


慰めなんかいらない。癒されなくていい。欲しいのは、星の距離感。これは天文部に集うスパイたちが、最前線で繰り広げた戦闘の記録。 (あらすじ引用)


坂木さんの待望の新刊、今回はノンシリーズということで(多分)早速鼻息荒く読んだ。5編収録の連作短篇集となっておりますが、天文部の4人が代わる代わる主人公となって、時系列も進んで行く体裁。長編と言った方がいいかな。

決して星が好きなわけでもない、個性がバラバラの自称スパイ4人組。それぞれのキャラクターがとても際立っている作品。美少女だけどクールなジョー、世の中の女子すべての味方ゲージ、武装ギャルのギィ、農家の息子で武闘家体型のブッチ。全員が思春期特有の行き場のない悩みや事情を抱えていて、それぞれが天体観測に意義を見出す。決して馴れ合わない4人は、適度な距離を置きながらもお互いを尊重し合っているのが分かる。彼らの会話そのものも漫才のようで面白いが、恒例の”飯盒炊爨”も見どころがいっぱい。マシュマロ炙り(おぇ^^;)やトマト入りの闇鍋、レモン汁かけ焼きそばなどなど、チャレンジ精神旺盛^^;
最初のジョーの章ではなかなかその対象の幼さがキツく、ミステリーも取って付けたようで入り込みにくかったのだが。

次々と天文部員それぞれにスポットが当てられていくが、彼らの悩みや事情は時に救いようがなく、時に真面目で、だからこそ天体観測をする事の意義が生命力に溢れていてかえって痛々しい。今しかない時間、今ここにいる仲間。馴れ合いという言葉が似合わない4人のスパイ達にとって、時間の経過は新たな挑戦の繰り返しだということにやがて気付いて行くのだろうか。彼らは悩みと共に成長して行く。どうして光り輝く星が、どこへでも行ける夜が、まだこんなに意味があるのか。同じ尺度で見つめようとしなかった自分がジョーと一体感を感じたのはなぜだろう。