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そして、警官は奔る  (ねこ3匹)

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日明恩著。講談社文庫。


警視庁蒲田署に異動となった武本は、不法滞在外国人を母に持つ幼女監禁事件を追った。一方、かつての
上司、潮崎は、武本の力になりたい一心で、独自に事件の調査を始める。そして、浮き彫りになる子供
の人身売買や虐待の現実。法律では裁ききれない闇に、二人はどのような光を当てるのか?シリーズ
第二作。(裏表紙引用)



どうしてこれが670ページもあるのかというと、手前で書いていた記述の繰り返しがやたら多くて
無駄が多いからでないかい?(←おもむろに)

それはさておき、第一作(「それでも、警官は微笑う」)ではそれなりに痺れる台詞や強烈な
人物描写が効いていたのに、そのどちらの要素もなくなってしまっているのが残念。
読んだのは昔だけど、「眉毛」の一件や潮崎のインパクトなどなど、結構憶えてるんだよねー。
「やらないで後悔するより、やって後悔しろ」の座右の銘も、ありがちすぎるからやめた方がいい、と
前回思ったのにまだやってるし。

ところで、肝心の事件よりも不法滞在問題、戸籍取得方法などが目立ちすぎて一体どういうお話なのか
わからなかったのはいかがなものか。もちろん事態そのものは深刻なので流し読みなどはしないが、
「これでは『難しい問題』『テーマが重たく考えさせられる』という感想しか書けないな」と
かなり初期の段階で思ってしまった。今回書評は廻っていないが、そういう記事が多そうな予感が
したからだ。
答えの出ない問題を掘り下げ、扱うのは尊敬すべきだが、実際問題ほとんどの日本国民には
(警察官や外国人、その関係者以外)身近なテーマではないのが申し訳ないところで、これを
読む人々のほとんどがおそらくそうだろう。問題提起をしておきながら結局一個人の警察官の
考えや生き方、法律のシステムを表現するだけならば、小説の深みには到達しない。
ミステリ的にも、動機が一つであるならばそれに当てはまる一人のある人物が関係している事は
明白で、最後に不快な印象を与えて退場させるのも酷だ。

しかし大長編ながら読む手を休ませない面白さは持っている。人物の描き分けについては完璧で、
特に茫洋として優しい潮崎や警官であるが故に厳しい過去を持った”冷血”和田には人気が
集まりそうだ。元々力量のある作家さんだと思っているので、次作も期待。