すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

マネーロード  (ねこ3.7匹)

イメージ 1

二郎遊真著。講談社


4年もの間ホテルにひきこもる、他者との肉体的接触を極度に嫌う、相対する人間の“金に対する
想い”が様々な幻覚となって現れる―これらはネット上で「金の声を聞く男」と呼ばれ、株式市場の
値動きを予見し二百五十億円超の資産を築いた「ヒィ」の「症状」である。その彼のもとに、一枚の
旧札が送られてきた。それこそが、捨て子だった「ヒィ」の本名が記された伊藤博文の千円札、
失くしてしまった唯一の大事な宝物だった…。送り主は、投資ファンドの代表である沢谷という男。
かつて「ヒィ」との仕手戦で屈辱的な大敗を喫していた。描いた絵図を台無しにした仇敵「ヒィ」に
対して、巻き返しを図る沢谷は何を!?第39回メフィスト賞受賞作品。(あらすじ引用)



評価、で言えば”良い”のだけど、好きかそうでもないかを判定するのが難しい作品でした。
この作者さんは脚本家の方と言う事で、ストーリー作りや会話など、こなれた感じを受けます。
あらすじだけを読むと小難しい経済ものかと思うのですが、素人にも全く読むのに支障のない
柔らかい書き方で安心。簡単に書くのは難しいと思うので、これもまた好感の一つ。
”お金”が一人称になるあたりもメフィスト賞らしい面白さ。

第一章は登場人物の話し言葉(語り含む)がいわゆる今風でのめりこめず。語り手がころころ
変わるのも読むのに疲れるなと思っていましたが、途中から一気読みでした。
ヒィちゃんが意外と繊細な感情を持っている青い人間だと言う事と、パートナーである
風俗嬢・カズキが第一印象とは別の一面を隠し持っている事が徐々に明らかになるうちに、
それが物語の吸引力となっている作風だと思い知ります。

堅い経済ミステリーと比べればこちらは完全にユルい作品ですが、ヒィちゃんの能力の
描写はホラー並みだし、クライマックスは恋愛小説ばりにこみ上げて来るものがあるし、
読み方さえ誤らなければ万人受けする佳作ではないでしょうか。
ゆきあやとしては、文章が好みではないため次作は手を出さないかと思われますが^^;


最近のメフィスト賞は、一時期の低迷していた頃に比べればまたレベルが上がって来ましたね。
たまには暴走する10代!や新ジャンルの走りになるようなものも読みたいけれど、
ハズした時に死にたくなるからやっぱりこれぐらいでいいかな。。