すべてが猫になる

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東京バンドワゴン  (ねこ3.6匹)

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小路幸也著。集英社文庫


東京、下町の古本屋「東京バンドワゴン」。この老舗を営む堀田家は今は珍しき8人の大家族。
60歳にして金髪、伝説のロッカー我南人。画家で未婚の母、藍子。年中違う女性が家に押しかける
美男子、青。さらにご近所の日本大好きイギリス人、何かワケありの小学生までひと癖もふた癖も
ある面々が一つ屋根の下、泣いて笑って朝から晩まで大騒ぎ。日本中が待っていた歴史的ホーム
ドラマの決定版、ここに誕生。(裏表紙引用)



ひょっこり本屋に入ったら文庫が出ていた。これ、評判良かったし読もうと思ってたんだよね^^
今まで小路さんはファンタジー系の2冊を読んだだけだったので、これまた違う作風のもので
多才さが窺えます。

語り手が死者^^;のおばあちゃんというのが、いきなりの掴みの自己紹介で面白げ。
上品だし、ちょっとユーモアのある可愛さも語り口も昭和的でなかなか^^。
とは言っても自分は”家族愛”ものは恋愛小説並みに苦手なのである(なら読むなよ。。。)。
別に「サザエさん」なら普通に観ますが^^;解説にある”寺内貫太郎一家”というのを
全く知らないのでイメージがスムーズに出来ません。。

あ、家族愛ものは苦手という話でしたね。
大人だけど堂々と”うらやましいから”と告白してしまおう。ここに入っている言葉の数々は、
まるで自分が欠陥があると言われているようで身に詰まされる。
それでもこの小説が「いい作品だな」と頭でわかってしまったのは、ここに登場する実は一見
何の悩みもなさそうに見える家族の一人一人が、それこそ一人では抱えきれないような痛みを、
過去を持っていた事。誰しもが一つや二つは抱える悩み嫉み、それが我が身に降りかかった時、
周りの人々が幸せに見えてしまうのはご理解いただけるかと思う。実はそれはとんでもない
間違いで、人間は乗り越えては行くが忘れられない痛みを胸の内にしまいこむ術を身につけている
だけだ。
だったら、自分がホームドラマが苦手だという理由が建前でしかない事に気付いてしまう。
こういう物語を読むと、そんな乗り越えない自分が「この中に入りたい」と叫んでしまう。
現実と混同したくないと言えば聞こえはいいが、それじゃダメだろう。


あまり取り沙汰されていない気配がするが、自分はミステリーとしてもなかなか優れた作品だと
思った。折角おばあちゃんと交信出来る人物がいるのだから、おばあちゃんが探偵役で、ヒントを
彼に伝える、といった設定でも面白かったかもしれない。全ての事件が人間と繋がり合うものなので、
弱いもの、強いもの、すべて共存して出来上がって行く、それが私達の住む世界なのだなあ、と
しみじみ沁み入りました。明日はおかんに電話をしよう。