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第10位 『大誘拐』 著/天藤真

やっとここまで来た、第10位。おそらくどなたも予想しなかったであろう、天藤真の代表作
大誘拐』が満を持してここにランクインでございます。
1991年に映画化、週刊文春による『20世紀ベスト・ミステリー』堂々の第1位獲得、
第32回日本推理作家協会賞受賞作。まさかコレを読まれていないミステリファンはそうそう
いないと予測しますが、ここでもう一度、21世紀に突入した今だからこそ、新たにこの作品に
触れてみませんか^^。

本書が書かれたのは1978年。およそ30年前になります。
果たして、その30年の間にこれ以上の完成度、面白さを誇る”誘拐もの”に出会って来たで
しょうか。私は否、です。
そういえば、私はミステリーという幅広いジャンルの中でも、銀行強盗ものや誘拐ものは
好きではない、と再三述べて来ました。理由はゆきあやマニアの方には説明いらずでしょうが
(わからない人は後で職員室に来なさい)、そもそも、最初に最高峰のものに出会ってしまって
いるわけですから、読書に対して貪欲を標榜するゆきあやならば「どうせ大誘拐は越えない」と
依怙地に拒否を繰り返していても仕方のない事なのです。




登場するのは前科のある3人の青年。社会復帰を目指すためには軍資金がいる。そこで
考えついたのは、和歌山で随一のお金持ち・柳川家の当主とし子刀自の誘拐だった。
万策練って見事刀自をさらったものの、肝心の隠れ家がない。切羽詰まった誘拐犯たちは、
途方もない計画をとし子に持ちかけたーーーー。




まずは、キャラクターです。本書の感想を述べるにあたり、主人公と言うべき82歳の大地主、
柳川とし子刀自について触れない方はいないでしょう。小柄で、親しみがあって、情があって、
そのくせ冷静で判断力に優れ、時には厳しい目を持ち、若い者を指導する統制力。そして包容力。
身代金の五千万円という提示を「私はそんなに安うないわ!」「百億円や。ビタ一文まからんで」と
恫喝する姿のなんとほれぼれすること。断言する。このキャラクターは日本文学界で一番カッコイイ。

そして、人質の無事や身代金受け渡しをテレビ中継し奔走する警察の目をかいくぐり、
犯人と人質がタッグを組み堂々と政府や警察、一般市民を翻弄する様のなんと痛快なことか。
さらには人情にも触れ、自然の美しさまでもを描き、人生、金、すべてを巻き込んで展開する
怒濤、怒濤のストーリー。
さらには最終章での胸を打つどんでん返し。

この面白さは完璧。
個人的な見解、と前置きした上で、この作品がどれほど他の誘拐ものよりも優れ、面白さも
兼ね揃えているか、、、をわかりやすくお伝えするならば、過去30年はもとより、
きっとこれから先、20年30年と、これ以上の誘拐小説は出ないのではないか。と
信じてしまうほどに、やっぱり今読んでもこんなに自分はこの作品を愛せているのであった。まる。