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第13位 『奇想、天を動かす』 著/島田荘司

26位にも登場した島田作品は御手洗潔ものでした。そして13位に吉敷竹史シリーズがお目みえ。
シリーズものとして比べれば御手洗ものの方が好きなのですが、おいらが一番好きな島田作品は?と
聞かれれば現時点ではやっぱりどうしてもコレなのです。と言っても「涙流れるままに」や
「龍臥亭事件」が未読なのですけどね。うん、でも、果たしてそれでもコレを越えるかなあ……?と
思ってしまうくらいこの「奇想、天を動かす」には痺れてしまったのですよね。

今までも島田作品では奇想天外なトリック、という言葉を連発して来ましたが、
ここで起こったピエロ消失、列車を持ち上げる巨人、謎の爆発事故という事件の突拍子もなさや
その驚きを上回る奇想天外な論理に敵うものはないだろう、と思うのです。
とにかくこのトリックは凄い^^;全部繋がっちゃったよ!
同時に、リアリティのなさもお墨付きですが^^;誰か実演してくれ。後ろで笑ってやろう^^;
ちなみに、これも金田一少年がパクってるんですよね。列車内ピエロ消失の設定だけだけど。


事の発端は、浅草で消費税12円の請求に腹を立てて店の主婦を殺した浮浪者風の老人。
彼は頑なに供述を拒みます。そこで、裏に何かある、、とカンを働かせたのが我らの吉敷竹史。
彼は捜査の末、過去十数年に及ぶ邪悪な犯罪に突き当たりました。



あらすじにもあるように、本作は「本格ミステリー」と「社会派ミステリー」を融合させた
作品です。元々、吉敷シリーズには社会派の要素が強く出ていて、「本格ミステリーと言っても
いい出来」という賛辞が多く寄せられる、、というイメージがあります。
別に「消費税=社会派」だ、と言っている訳ではないのですが^^;
この作品は哀れな犯人の人生そのものを描いた、社会風刺の作品でもあるのではないでしょうか。
ドラマというのは理路整然としていれば良いわけではなくて、本来こういうアンバランスな
作品は受け入れられにくいのです。
登場人物の背景や人格が熱く描かれ、提示した問題を掘り下げ、こちらを盛り上げ切ったところで
やっとあの奇抜なトリックが読者の頭の中で完成するのでしょう。そこで、このタイトルである
「奇想、天を動かす」が生きて来るのです。


そして、私の心を最後まで動かしてくれたのはラスト1ページでの吉敷さんの火傷しそうな熱さ。
「俺は誰にも威張りたいとは思わない。どんなチンピラ野郎に対しても、生涯丁寧語で話し続けて
かまわない。(中略)そんな穏やかな俺を、ときにあんたみたいな男が狂暴にする。あんたは
この事件を知ってるのか!?この事件が、○○○にとってどんな意味があるかを知っているのか。」
「俺の望みはただひとつ、白は白、黒は黒と言い続けて死んでいきたいんだ。」


この作品を読んだ後、他の吉敷作品を数冊読んだけど、彼のキャラクターはこの作品で不動に
なったのかもしれないと思った。吉敷さん、もう一度あの言葉を聞きたいよ。