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11枚のとらんぷ  (ねこ3.7匹)

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泡坂妻夫著。創元推理文庫


奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって
発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使われている小道具が、
壊されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが……。
奇術師としても高名な著者が、華麗なる手捌きのトリックで観客=読者を魅了する泡坂ミステリの
長編第一弾!(裏表紙引用)



「乱れからくり」でその天才的な手腕で魅了してくれた泡坂さん。2冊目の挑戦です。
こちらはかなり変わった構成のものとなっていて、正直驚かされました^^;
作中作である「11枚のとらんぷ」がそのまま11編の短編として中盤で挿入されています。

第一部である「マジキ クラブ」の奇術ショウの章は、そのまま舞台進行が物語となって
描かれており、非常に楽しめました。お世辞でなく、こちらが観客となってハラハラと
舞台を観ている気分になります。この彼らの初舞台は波乱だらけで、観客の空気までもが
伝わって来るのです。奇術のBGMである音楽も、出演者の衣装もマジックも、まるで
目に見えるようでした。

これは大当たりだぞ、と思っていたのですが。
すいません、自分がマジックに興味がないせいだと断言出来ますが、「11枚のとらんぷ」の
章、ちょっと引いて読んでしまいました。確かに、ミステリの心理トリック、謎解きとは
共通するものがあるのですが、「さっきの女性はどうなったんだ!?」という事ばかりに
気を取られて焦ってしまいました。


そこで重要になるのが解決編である最終章なのですが。
全く関係がなかったらキレてました^^;ああ、こうやって真相を知るとなるほどと思う
事ばかりです。残念だったのは、かなり駆け足で謎が解明されて行った事と、死体の
回りに散乱する小道具に対してそれほど深い意味付けを感じられなかった事です。
個人的な気持ちですが、第一章のショウの中にたくさん伏線があって、それがそのまま
繋がった方が(作中作ぶんプロットを増やして)自分は楽しめたのではないか、と
もやもやした読後感になりました。


しかし泡坂さんは大変面白いです。古くささなんてほとんど感じられない。今の作家で
これほど文章を楽しませてくれる方は少ないのではないかと思います。
他の作品も楽しみ。