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第26位 『異邦の騎士』 著/島田荘司

ミステリファンとしては絶対に外せない大御所作家が26位に登場です。企画では1作家1作品、
というルールを設けているわけではないのですが、3、4人の作家で30作品を埋める訳にも
行かないのである程度「好きな作品がありすぎて辛い」作家については篩をかけました。

しかし、島田荘司氏については自分自身の島田デビューが遅く、今現在ですら半分ほどしか著作を
読破しておりません。島田作品の代表的なシリーズの一つである「御手洗潔」ものについても、
「好きな探偵ベスト3」に入る程好きではあるのに『ネジ式~』でストップしているという体たらく。
それは御手洗潔という探偵が年齢と共に魅力に欠けて来ているのを如実に感じていることと
無関係ではないと思うのですがどうでしょう。




さて、その問題はさておいて本題の『異邦の騎士』です。
自分が読んだ島田作品の中で、一番完璧な作品ではない、と思っています。「評価」をするならば
本作よりも堂々と満点を出せる作品は他に数作あります。この作品には島田氏独特の奇想天外な
トリックや目が眩むほどの展開の流れはありません。一人の記憶を失った青年が愛する女性と
出会い、御手洗潔と共に波乱に満ちた人生を歩む物語です。
私の大好きな御手洗潔。この作品が彼の魅力のピークではないか、と思っているほどです。
彼の奇人ぶりを少しだけ紹介しましょう。

「御手洗占星術教室」の門を叩いた主人公がおそるおそる御手洗に声をかけるシーン。
「あの、あなたが御手洗……」

『名前なんてものは記号にすぎません!!』


…………初対面の会話がこれです^^;さらに、コーヒーに入れる砂糖が見つからず
やっと探し当てた御手洗が主人公に大声で一言。

『これが砂糖です!』
と、まるで万有引力の法則を発見したニュートンのように力を込めて言った。



どうでしょう^^;;他にも色々もっと凄い発言や行動があるのですが、未読の方のために
これぐらいで。
初読と再読では読んでいる側の姿勢や感動が別物になるのですが、今の御手洗を知っているだけに
凄く懐かしくて、忘れていた素敵な思い出を引き出した気分になりました。
ああ、このころの御手洗は最高だったな。

事件そのものの詳細は忘れてしまっていたけれど、この作品の中に詰まっている様々な
台詞や、感動のシーンは何年経っても色褪せる事はありません。今でも時々、御手洗が
バイクに乗っている姿や彼らの友情が深まって行く姿を思い出したくてそのシーンを
読み返します。自分がその思い出を抱えてこそ、年を重ねてゆく今の御手洗達が愛おしくも
思えるのです。御手洗シリーズを読むにあたり、本書を抜いては語れない、と自分は
信じています。(しかしだからこそ、作品ごとにムラがある事が残念でならないのですが)


ミステリファンで未読の方はぜひお手に取ってみて下さい。損はさせません。
アドバイスとしては、本書の前に他の御手洗潔シリーズ(出来れば初期、短編集でも可)を
2、3冊読まれていた方がより大きなサプライズが得られて宜しいと思います。