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第27位 『幽霊刑事』 著/有栖川有栖

30、29、28位と、世間的にも傑作と呼ばれる作品が並びました。ミステリ好きの方々から概ね
同感を得られて嬉しい限りでございます。特に『僧正殺人事件』にあれだけコメントをいただけるとは
思ってなかった!ありがとうありがとう(*^^*)v

で、27位がこれです。有栖川有栖氏の隠れた名作『幽霊刑事』。
本作も2001年度本格ミステリー・ベスト10入りをしている作品ですのでそれに力を得て
この作品への愛を語って行きたく存じます。もちろんお仲間さんで読まれている方は多いはずですが、
普段有栖川氏作品の話題がのぼることは多々あれど、江神シリーズや国名シリーズの人気に押されて
この『幽霊刑事』が取り沙汰される事は少ない、と日々感じておりました。ノンシリーズでも
『頼子のために』(byのりりん)や『殺戮にいたる病』(byたけまる)は今でもあれだけスポットを
浴びているのに。
もちろん、本書はミステリーではありますがトリックやロジックが特別優れている作品では
ありません。これは有栖川版『ゴースト』、究極のラブストーリーなのでございます。


主人公・<幽霊刑事>は巴東署に所属する巡査。彼には同じ署に勤務する須磨子という婚約者が
いた。しかし、ある日課長である経堂に釈迦が浜に呼び出された彼は無念にも射殺されてしまう。
事件から一ヶ月後、幽霊となって復活した彼だが、身内にも須磨子にもその姿を認めては
もらえなかった。肩を落とす彼だったが、唯一彼の姿を視認出来、会話が成立する人間が登場する。
同僚である早川である。憎むべき経堂課長を糾弾するべく、幽霊刑事と霊媒刑事の最強のコンビが
誕生したーーー。


というストーリーです。設定だけ聞くと、とても面白そうには聞こえないのですが^^;
とにかくコミカル。注目すべき点は、一見とぼけキャラだけど実は胸に熱い血をたぎらせる
早川と、犯人がわかっていながら自分では可能な捜査が限られている幽霊刑事との
かけあい漫才のような会話です。ほんとにこれだけで1週間分は笑える^^;
しかし、笑えるだけでは成立しないのが小説。
ユニークな設定でありながら、突然愛する人と離れてしまった心の空洞、幽霊となった彼の
心の孤独、悪を憎む心が痛いほどに表現されているのが素晴らしいのです。
特に、彼が雑踏で一人叫び続けるシーンや恋人のベッドで添い寝をするシーンなどは
胸に迫り来るものがあります。
「いなくなる」という前提で日々愛する人達と最初から接する、というのもリアルでは
ありませんが、彼のように空を飛べたり無料で乗り物に乗れる透明人間になれるからと言って
同じ境遇を望む人はいないと思います。日常で恋人に不信感を抱いてしまう人はその力を
望むのでしょうか。もっと自分の目で見なければならない生活があるはずです。
お互い生きているのですから。


ストーリーとしては非常に常道で、感想も↑こんなまっとうぶった形となってしまう
作品なのですが。私は有栖川さんの描く繊細でロマンチックな要素が大好きなのです。
ラストシーンはハンカチ必須。有栖川さん、二度も感動をありがとう。