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第30位 『七回死んだ男』 著/西澤保彦

さあ、オールタイムベストがはじまるよ~♪(ちびまる子ちゃんの口調で)

一つお詫びを。「面白い事をするかも」と予告しましたが、本を読むのに命がけで時間が取れません
でした。。ネタをばらすと、作品に合ったおもしろイラストをででんと添えようとしてたんです^^;
今「すべ猫」の看板になっている画風で。。。(友人S・談「画才ゼロやな」)




さて、オールタイムベスト記念すべき一冊目は西澤保彦の最高傑作と呼び名の高い作品。
最初から最後まで隙のない、SFミステリの金字塔とも言うべき『七回死んだ男』。
再読の為本棚から引っ張り出すと、その状態の美しさに驚き。

『あっ!これ、新品で買ってるじゃん!』

そう、この当時の自分は完全古本派で、新品で文庫を買う事など贅沢で非常識な事でした。
先行して集めていた綾辻行人ですら全て古本でしたから。
なのに、明らかにこれは新品で買っている。。読みたくて読みたくて、欲しくてたまらなくて
毎週ブック○フに通いつめては肩を落として帰っていたあの日々。。これは面白すぎて
売る人もなかなかいなかったのでしょうね。いつ行っても『解体諸因』はあったのに。。
それから新品で買った経緯はさすがに忘れてしまいましたが、期待に期待しまくった本書を
最初に読んだ時の興奮とときめきと満足感は今でも覚えています。



大企業の社長である祖父が、元旦に招集した親類一同に囲まれ他殺死体となって発見される
衝撃的なプロローグ。しかもその親類達は秘書達を含めて全員色違いのトレーナーに
ちゃんちゃんこ姿という意味不明さ。そして主人公である「キュータロー」の体質である
「反復落とし穴」の説明が導入されます。「このミステリにはこういう独自のルールが
あるからよろしくね」というご挨拶ですね。

「同じ日が9回繰り返される」という、自分だったら退屈で気の遠くなるようなこの体質を
「反復落とし穴」と呼ぶ。そのスタートはいつ始まるかわからない。それを認識しているのは
自分だけで、最終的に経験した9周目の日が「決定版」となる。

そんな彼が不運か幸運か今回嵌まってしまったのが「祖父殺害」の日だった。。。
彼は残りの8周で、殺人を防ぐ事が出来るだろうか。




作風がコミカルなのが一見難解なこの作品と相性が意外にいいのが魅力。
好感の持てる平凡で剽軽な主人公だから、その語られる説明の箇所だけ妙に浮き立っていたりしない。
家族それぞれが(特に女性陣)必要以上にヒステリーだったり個性的だったりするのも
大げさで面白い。設定がおかしなものだからこれもまた違和感なし。
後継者争いで醜く張り合う親族達の滑稽さに読む側のテンションも上がる。

この作品がミステリとして面白いのは、「犯人は誰か」がメインではなく、
主人公が直面する周ごとの異常な事態に合理的な原因と理由があった事。
どうして毎回祖父は死んでしまうのか。なぜその都度犯人が変わるのか。
まるで親族全ての人間に殺したい程憎まれているような、しかしこの作品は他のミステリ作品と
違うのは、『状況によって発動される動機』の恐ろしさ。作品で主人公はその点には
触れていないが、あの日右を選ぶか左を選ぶかで運命が変わる、人間の意志とは、
なんと不安定で頼りないものか。


発表されたのは1995年。自分はこれ以上の刺激を得られるSFミステリ作品にまだ出会えてない。
多くのミステリ読者に読まれている作品。もし、まだ未読だという方がいればここはひとつ
読んでみるほうを選んでみませんか。