すべてが猫になる

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バトル・ロワイアル  (ねこ3.7匹)

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高見広春著。幻冬舎文庫


西暦1997年、東洋の全体主義国家、大東亜共和国。城岩中学3年B組の七原秋也ら42人は、
修学旅行バスごと無人の島へと拉致され、政府主催の殺人実験を強制される。生還できるのは
たった1人。そのためにはただクラスメイト全員を殺害するのみーー。(裏表紙引用)



ホラー小説大賞の予選候補に挙がりながら、選考委員たちに猛烈な拒絶を受けた事が逆に
話題となり太田出版より上梓された。さらに東映系で上映された映画版が国会を巻き込んでの
論争に発展した。(前知識)



「42人皆殺し」という衝撃的な設定には「これのどこがそんなに・・?」と首をかしげざるを
得なかった。中高生に圧倒的な支持を得ている作品らしいが、妙に納得した。
エンターテイメントとして彼らの心を躍らせる内容である事はすんなり理解出来るし、文章が
小説向きではない印象を受けたところも読書離れしている若い世代にはぴったりだろう。

テーマそのものは「どんな極限状態にあっても人を信じる心」、「大人社会の是非を問えるだけの
自立心の向上」などが浮き彫りで、衝撃的かつ斬新なものではない。
結局そうなのか、というのが正直な感想。
恐怖のあまり殺人の鬼と化してしまう少年や正義感に凝り固まって正しい判断が出来なくなる
少女、同性愛の傾向を持つ少年の短絡的な行為、クラスメイトの裏をかき打算的に冷静に
行動する少女が死の際に自分の真の心を見つめた時。。。
42人もの登場人物を見事に描き分けており、読者が「自分ならどのタイプになるか」を
考えさせるに十分な丹念な内面の描き込みぶり。
その中で、「主人公」である七原秋也、中川典子、川田章吾が圧倒的な「理想的」タイプとして
物語を明快にしている。自分が読むなら「健全」でない人間の思考回路の方が興味深い。
現在の一般小説でも「クライム・ノベル」というジャンルが確立され、「アッチの人」が
語り手となっている小説がごまんとある。その衝撃に比べれば、殺人の残酷描写や
政府側の危険思想を除けばこちらは健全な作品であるように思う。
金八先生のパロディも、ただ「面白い」だけだった。着想は後から思うと素晴らしいと思うが。


最後に、あとがきにて書かれていた絶賛のどれにも共感は出来なかった。
選考委員の判断が正しかったとまでは思わない良く出来た作品だと感じるが、
「本書に限って言うなら絶対小説である」という意見はどうかと思う。
自分は「小説でなければきっと楽しめた」と感じたから。
このデビュー作品からこの作者の作品が発表されていない現状を考えると、
審査の方々もどこか同じ印象を抱かれたのではないか、と想像するが。。。

蛇足ながら、自分が読んでいて連想した『死のロングウォーク』(S・キング)、
漂流教室』(楳図かずお)のタイトルがずらずらと解説に挙がっていたのがちょっと
悔しかった^^;こういうのを先に読んでいるとやっぱ本書と比べてしまうのかなあ。