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悪人  (ねこ5匹)

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吉田修一著。朝日新聞社


保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、
それぞれの家族たち。群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ。なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は
逃げ続けるのか?そして、悪人とはいったい誰なのか。(あらすじ引用)




2007年「このミス」で20位内にランクインしている作品だそうだが、タイトルや作品の
概要的にまっったく眼中に入れていなかった作品。今回めでたく購入の運びとなった。
この作品を昨年中に読まれ、あの『首無の如き祟るもの』を2位にせしめたたいりょうさんに
深い感謝の念を贈りたい。一気読みした今、自分でさえも「この作品を昨年読んでいたら
1位にしていた」と感じる程の手応えだったからだ。もちろん好みは人それぞれだし、
本書を読んだ全ての人が同じ感想を抱くという保証は持っていない。そんな御託はブロガーの
皆様には釈迦に説法だが、読んで絶対損はない作品だと言う事は間違いないと思う。
おいらはもう正月に2008年のベスト1位が決まってしまってある意味落ち込んでいるぐらいだ。
そして2位が「チョコレートコスモス」という可能性もある。。。



悪人!!
テーマは悪人は誰か、である。犯人は誰か?ではない。
登場人物の誰ひとり「語り手」にはならない、視点が神様ですらない、この現代に生きる
人々に起きてしまった一つの事件。
人物によっては、「誰でもこういう要素を持っている」「あなたの身にも明日起きるかもしれない」
とは言い難いものもあるという見方を自分はしたが、この事件に関わった人々の身に起こった
出来事は、日常に必ずあるのだと思った。理解の出来ない悲惨な事件なら毎日のように「また」
起こっている。結果は決まっていても、人が変わればそれはまた別の、まったく違う悪人が
そこら中に闊歩している。

しかし、悪人とは何だろう?
本書を読んだその後に、その問いに明確に答えられる人が果たしているだろうか。
この作品は、「育った環境が~」というような、今まで多くのTVで語り尽くされて来た答えで
「難しい問題だ」と額に皺を寄せるだけでは済ませてもらえない『何か』がある。
犯人が容易に判明してしまう展開だけ見てもそれは確かな事だけれど、
悪人だらけのこの物語で、物語に引き込まれながら読者は本当の悪人を探し続ける。

最後に見つかったのは、貴方が思うままの「悪人」だろうか。
それとも辿り着いた先は自分の中にいる「悪人」だろうか。