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少女七竃と七人の可愛そうな大人  (ねこ4.6匹)

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桜庭一樹著。角川書店


七竃はいんらんの母が七人の男と寝て生まれて来た少女だ。いんらんの娘は美しく、そして孤独だった。
親友の雪風と共に鉄道を愛し、二人だけの世界を造り上げて生きて来た。母はまだ旅に出ている。
そしてある日現れたスカウトの男をきっかけに、二人の世界は変わりつつあった。




これはいい。私の中では桜庭一樹の最高作だと思う。
ラスト数十ページのためだけにある、クライマックスの良さを伝えるためだけの作品とも言えるが、
それだけで満足出来る哀しさと美しさを持っている。
昭和初期の雰囲気を持ち前の流れるような文体で描き、登場人物一人一人の描き分けも見事。
あまり丹念に描き込んでいないのに、章ごとにクローズアップされる登場人物の色が、匂いが、
浮き上がって来る。
赤朽葉家の伝説』が視覚効果の強いものだったとすれば、この作品にも共通する。
しかし、私が読んでいるとこの作品のラストでは突然に音楽が流れて来た。
驚いた。特に具体的な曲ではなく、フォークソングというのか、ちょっと昔の歌謡曲のような
哀しくメロディが美しい、何年も歌い継がれて行くような名曲。もう思い出せないが、
七竃と雪風が最後に語り合うシーンにとてもよく似合っていた。


七竃はたくさんの大人に出会い、変わらないものはない事も、子供ではいられない事も
知ってしまった。作品では哀しいシーンが印象的だが、私は前に進む事の意義と
これから自分が可愛そうな大人になって行く哀しい二人の、限りある人生のプロローグのように
感じた。


桜庭一樹にはありあまるほどの才能がある。一目置かなくてはいけない作家だと思う。
きっと、読書家ならば知らない人は誰もいないぐらいになるんじゃないだろうか。