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スイス時計の謎  (ねこ3.8匹)

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有栖川有栖著。講談社文庫。


本格推理小説、ただいま。
本来ブログ開設当時は一番『すべ猫』らしいジャンルの記事だったはず。しかーしこのところめっきり
こういう完全本格ミステリーを読む機会が減ってしまっていた。
積読本消化キャンペーン中は、順番だから義務で手をつけている気分の本も若干ありますが、
本書はその積読本の中でも「早く読みてぇな~」と思っていた本の一つ。

有栖川さんおなじみ国名シリーズ、第7弾です!
やっと文庫で出てる分は読破しました(;^^A


これは何と言うか、長編2作含めても一番良いですね。4編収録されていますが、
一番「有栖川さんらしさ」が出ていて、良さが十分に発揮されている気がしますよ。
まずファンにとって有栖川さんと言えば「ロジック」だと思いますが、
私はもう一つの有栖川さんの魅力、「リリカル」の面の方のファンです。
もちのろん、ロジックが「アイタタ」だとさすがのゆきあやさんも怒っちゃいますが、
本書はどちらもにじゅうまる。
特に表題作は中篇ですが、素晴らしかった。有栖の同級生でもある『リユニオン』の
面々の一人が殺され、被害者のはめていた一同お揃いの腕時計が消えていたという
事件なのですが、割れたガラス片、刻まれたイニシャル、いずれも謎も魅力的で、
一人一人ロジックで犯人でない者を消去して行く様は見事。
消去法と言っても、「だから残ったあんたが犯人」というだけでなく、きちんと
その人物が犯人である理論が綺麗に説明されて行きます。


そして、今回初めて「作家・有栖川有栖」の秘めたる過去がかいま見れるのが驚き。
火村さんもたいがい秘密だらけですが、表題作の主役は有栖でしょうね。
ちょっと感動しましたよ。友情の哀しさもそうですが、作家としてマンネリ化していると自嘲する
有栖が事件を通じて立ち直って行く姿は。

『あるYの悲劇』も良かったです。こういうユニークな謎解きは私好み。
『女彫刻家の首』も良い。特にラスト。火村さんの『神の裁きだって?裁いていいと誰が
てめえに言ったんだ』というこの真摯な言葉に震えました。
えと、『シャイロックの密室』は珍しく倒叙ものだったので面白く読めたのですが、
ちょっとトリックが独特すぎるので「ずる~い」と思ってしまいました^^;
でも、ラストの火村さんはかっこいいぞ。犯人目線だけどね。



ロマンと言えば男性を連想するけれど、有栖川さんのロマンは『人間』に向けられたものという
強さを感じて好きなんだなあ^^ 大人の哀愁ですな。