すべてが猫になる

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模倣犯  (ねこ4.8匹)

宮部みゆき著。新潮文庫


公園で発見された女性の右腕、その第一発見者は過去に発生した悲惨な一家惨殺事件の生き残りの
少年であった。それが過去類をみない知能犯による連続誘拐殺人事件の幕開けとなる。犯人は、
マスコミや犠牲者の遺族に電話で挑発を続ける。そして、ある重大な交通事故が山奥で発生。
この事故の被害者の正体は日本中を震撼させた。事態は意外な方向へ怒濤の展開をみせる。




文庫にして全五巻の超大作。同僚が買って来るという幸運に恵まれたわたくし、毎日せっせせっせと
読み続け遂に読了の日を迎えました。誰か花束ください。
いや、もう最初は5冊の分厚い本に恐れをなしていた自分ですが、読み終わった今となっては
「これなら10巻くらいあっても読める!」と言える程の夢中ぶり。ちなみに同僚はラストが
不満そうでした。「ラストの感想聞きたいから早く読み終わって!」とせかされ^^;;




第1部~第3部という構成になっていて、それぞれ一つの事件と過去の事件、当事者、関係者
一人一人に焦点をあてて進む物語。とにかく、だから人物像がはっきりしている。
どの登場人物にも血管が流れ、熱いその胸の内がひしひしと伝わって来る。中でも、読者が
感情移入してしまうのは当然被害者達とその家族だと思いますが。。

史上初、今までになかった凶悪な犯罪。時代設定は今私達が生きている時代より少し古いよう。
私が感じたのは、この物語をもしこの登場人物と同じ時代に読んでいたら、印象が変わったんじゃ
ないかと言う事。具体的な事件名は意識的に伏せますが、ここ十数年で起きた日本の重大な
殺人事件が起きる前だと言う事。こういう犯罪者の心理として理解不能な事件に前例がある状況
とそうでない無防備な状況とでは、物語から感じるリアリティ、体温まで影響を受けそうだと。
もちろん、作者の宮部さんは私達と同じ時代を生きておられるわけで、先見の明、ともまた
違うわけですけども。今、こういう犯罪者が出て来てもおかしくないわけで。。

そして、ここまで犯罪者、遺族の心情を描き切った小説が今まであったでしょうか。
分量という強みがあっても、ページ数さえもらえれば誰でも描けるわけもない。
先日読んだ東野さんの『手紙』は素晴らしかったが。
平凡な一人一人の人間に重点的にスポットをあてる。地位も名声も知識もない、ごく普通の
人間が犯罪の犠牲者、遺族になってしまった時。ここで宮部さんは、全ての人間が誰かと強く
繋がっているんだという事を伝えて来たのだと思う。

主人公は聡明で驕り高い、頂点を目指した哀れな犯罪者じゃなかった。犯人が平凡なくだらない
人間どもだと揶揄したその「大衆」が最初から最後まで主役だった。
「人間」でないなら悪いけど、当たり前だ。