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雷の季節の終わりに (ねこ3.9匹)

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恒川光太郎著。角川書店

現世から隠れて存在する小さな町・隠で暮らす少年・賢也。彼にはかつて一緒に暮らしていた姉が
いた。しかし、姉はある年の雷の季節に行方不明になってしまう。姉の失踪と同時に、賢也は
「風わいわい」という物の怪に取り憑かれる。風わいわいは姉を失った賢也を励ましてくれたが、
隠では「風わいわい憑き」は忌み嫌われるため、賢也はその存在を隠し続けていた。賢也の隠での
生活は、突然断ち切られる。ある秘密を知ってしまった賢也は、隠を追われる羽目になったのだ。
風わいわいと共に隠を出た賢也を待ち受けていたものはーーー?(あらすじ引用)


衝撃のデビュー作『夜市』に続く、長編第一弾です。表紙がきれい~^^。こういう色合わせ
大好きだ^^。

文章が格段と良くなってます。前回で一部気になった表現の稚拙さを今回はまるで感じなかった。
文章家という程ではないのでしょうが、私が言いたいのは恒川さんの持つ独自の感覚を文章にする
センス。物語として考えると、第一部、第二部に分かれてしまったかのようなバランスの悪さも
目立った気がします。しかし、これはズルい言い方かもしれませんが、世界観に浸りながら
文字を追ってうっとりと読んでいたのでそういうテクニック的なものはあまり気にならない。。

前作に比べると、残酷さや、世の中を少し冷めて見た部分(もしかしてこれが恒川さんの
特徴?)が前に押し出されていて驚き。こっちを先に読んでいたらやっぱり「ホラーが苦手な
方にはオススメしません」と言っていたかも。

印象に残ったのはやっぱり茜と継母である沙智子のエピソード。
「沙智子でなければ、きっとうまくやれた」というくだり。
そうだろうか?
ネタバレ覚悟で書くが、

ここでは「可哀想な子供」に対象が設定されているが、この物語では彼女になぜ
甘い選択肢や最後が用意されていないのだろう?もっと、未来に希望を持てるような、
人生に可能性を感じるような、「辛い事の後には」なお約束がどこにも見当たらない。
最終的に悪は悪で滅びてしまうのだが、それでも作者は残された正しい者を正しい道へと導かない。
読む者に委ねられる、またしても突き放された感のある、
それでも強さだけは感じられる、そんな最後だ。
不条理な世の中、ハッピーエンドじゃ救われない読者もいるだろう。
私はこれがこの物語の答えだと解釈する。


こういう個人の解釈が入る余地がある分、完璧な作品ではないのかもしれない。
(本来はそれがある方が良い作品と捉えられるものだと思うけれど)
が。私は好きだ。ワンパターンでもいいからこの世界観を保ち続けてくれるととても嬉しい。