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死者の書/The Land of Laughs (ねこ5匹)

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ジョナサン・キャロル著。創元推理文庫

ハリウッドの有名俳優・スティーブン・アビイ(故)を父に持つトーマスは、天才作家のマーシャル・
フランス(故)を偏愛するあまり彼の伝記を書く事を決意。ある日フランスの稀覯本をきっかけに
知り合ったサクソニーと共に、フランスの娘・アンナの住む町ゲイレンに辿り着く。
しばらく逗留する事になったトーマスの目前で、アイスクリームを持った少年が突然トラックに
撥ねられた。運転手は「こんなはずじゃねえんだ」と言い、町の女は「あの男の子、撥ねられる
前は笑ってました?」と聞いた。どういう事だ?この町はどうなっているんだ?


一つの本を完璧に愛せるというのはそうそうあるものではなく、難しい。
その作家に特別愛着がある。文章や表現力が好みだ。ストーリーや構成、テクニックが素晴らしい。
最後のどんでん返しにびっくりする。人物に惹かれそのキャラの物語が終わってもその先の人生まで
想像する事が出来る。泣ける。笑える。面白い。楽しみ方は千差万別で、自分の好きなたくさんの
本達も、気に入っている理由はそれぞれだ。
また一つ、「完璧だから」という理由がある事も忘れていた気がする。

あらすじだけで好奇心を刺激された。撥ねられる前に男の子が笑っていたか??なんだそれ??
評判もすこぶるいい。キャロルファンの方々はこぞって本書を褒める。私が買った本の帯も
これ以上ないくらいの煽りっぷりだった。
ストーリーのなんという意外性。誰がこの展開を想像する?最初から最後までだ。こんな発想をし、
独自の世界を演出しきった本を私は読んだ事がない。
雰囲気が不気味すぎる。謎が深まるにつれて不気味さも際立ち、謎が明るみになるにつれて
恐ろしさが膨張する。
そして、文章一つ一つとって嘆息するこの表現力。ちょっとした登場人物の行動、目線、
言葉。それぞれにどれほどの大きな意味を持っているか!彼ら一人一人の顔かたちや表情、
人格、これまでの人生までが浮かんで来そうだ。だからこそこのとんでもない展開に
自然に驚き、引き込まれる事が出来る。
ラストがいい。肝心なアレや重要な出来事を時間を経過させ端折ってしまうのも
このラストシーンに効果的だった。

ええい、なんだかあれこれ書くとこの気持ちが萎えて来そうだ。
こんな面白い本の良さを私ごときがうまく表現できるもんかぃ。
普段、めったに出会えない完璧な本より欠点のある本であれそれごと愛着を持てるが、
完璧であるからこそ私は本書を愛せる。(記事冒頭へ戻る)


本書をプッシュしていただいた月野さん、ありがとうございました(*^^*)v。