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青空の卵 (ねこ4.8匹)

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坂木司著。創元推理文庫

坂木司は平凡な保険会社社員。彼には一風変わった友人がいる。「自称・ひきこもり」の鳥井真一。
近所のスーパーへ毎日連れ出し世間と接触させるのが坂木の使命。料理が得意で、頭脳明晰な
鳥井は坂木の遭遇した事件を次々解決して行くが。。著者デビュー作。


なんて純粋で綺麗で人の温もりに包まれた世界だろうか。

今時珍しい、随分とデリケートな事柄を扱っているのに驚いた。こういう内容は一歩間違うと
爆弾で、大きな間違いを犯す。体験者やそれに準ずる経験者、当事者である読者の反感を
買いかねない。ここに広げられた問題や思考は、理想論であって砂糖菓子のように甘い。
そこで坂木と鳥井の一風変わった、美しい友情の見せ方が重要になって来る。
連作短編ならではの、事件の推移と共に明らかになる鳥井の過去、人間性、不自然でない
ホ○でもない坂木の友情。これがなんとも素晴らしかった。
「僕は裏切らない!!!」
おいおい、30過ぎた女(わたくし)を簡単に泣かせるなよ~。。

鳥井は引きこもり。坂木は社会人。キャラ設定と正反対の印象を抱いたのが個人的に
面白味があった。私の目には坂木の方が世間知らずに映る。学生時代に気付いて欲しいような
事に今頃目覚めているあたりがそうだが、彼はきちんと自己を顧みているし、行動に移す。

本質は動機にないのだ。保守的であるから人の尊厳を奪う。

なんだか感動しすぎてまとまらないが、久しく穏やかな気持ちで晴れ晴れとした
いい読書をしていなかった事に遅まきながら気付く。
誰にでも薦められるタイプの小説ではないけれど。
まっとうな事から目をそらさない勇気を持って、穢れた部分とも向き合える、そんな人には
本書はおすすめです。そう、私にとっては米澤穂信の世界に近く、それよりもっと清々しい。

三部作か。。。(いそいそ。。。)