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ハマースミスのうじ虫/The Hammersmith Maggot (ねこ3.8匹)

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ウィリアム・モール著。創元推理文庫

風変わりな趣味の主キャソン・デューカーは、ある夜の見聞をきっかけに謎の男バゴットを追い
始める。変装としか思えない眼鏡と髪型を除けばおよそ特徴に欠けるその男を、ロンドンの人波から
捜し出す手掛かりはたった一つ。容疑者の絞り込み、特定、そして接近と駒を進めるキャソンの
行く手に不測の事態が立ちはだかって……。(裏表紙引用)


1955年に書かれ入手困難だった名作が遂に新訳で甦った、との騒ぎ?^^;につられ
いそいそと足取りも軽く買う。つられたのは評判だけでなく、このインパクトあるタイトルに
惹かれたというのも大きな理由。「うじ虫=犯罪者」の比喩も含まれているが、犯罪者と言えど
なぜここまで卑下されるのだろう、この犯罪者とはどんな人間なのだろう、とそれだけが
興味津々だった。
その読み方はある意味正解だった。スタイリッシュでカッコいい時代の雰囲気と文体が
妙に心地よい、しかし言ってみればそれだけのような気がする小説だったもんだから、
そこに惹かれなければ退屈な内容だったかもしれない。登場人物はそれほど増えないし
主人公のキャソンがバゴットに執着する様も、個人的な恨みつらみ事情がないもんだから
これが彼の「生き様」であるとありのまま受け入れるしかない。謎解きとしての
意外性もない。

ドキドキして読んだわけじゃないが自分向きだな、と感じつつちょっとした期待もしつつ
字を追っていた私。最近の派手で技巧が冴えた「人間を描いている!」国内ミステリが
しんどい自分にはみょ~~~~にこの淡々とした衝撃のラスト、痺れる結末だった。