すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

異邦人 (ねこ3.4匹)

イメージ 1

西澤保彦著。集英社文庫

23年前の夏、父が殺された。未だ犯人は捕まらない。レズビアンの姉は、恋人と別れ、家を継ぐ
ために結婚した。大好きな姉の犠牲の上に、「わたし」は学者として自由に生きてきたのだーー。
突然、父が殺される数日前にタイムスリップした「わたし」。狂ってしまった家族の人生をやり直す
ために、殺人を未然にふせぐことができるのか?(裏表紙引用)


カミュだと思った方すいません(いるのか)、SFミステリの「設定」の名手、西澤さんです。
そう、「設定」が凄いんですよね、西澤さんは。最初は純然なSF小説だと思っていたので
「タイムスリップした事による不具合、不整合、矛盾」をいかに合理的に説明をつけるか、
その説明がやはり過去で出会った姉の恋人である少女との「会話」で編み込まれて行きます。
ほとんどその説明に中盤費やされているため、「SFにいちいちツッコミ入れる人なんて
いるのかよー、端折れ端折れ」と傲慢な気持ちにもなるってもんで。
しかし、その「会話」から「わたし」と「少女」との関係が不自然なく展開し、同時に
姉への誤解が溶解して行くのはさすがかもしれない。おかげで違和感なく「父の死の真相」の
謎解きにスッと心が流動する事が出来たかも。あの説明過多なSF談義も、ミステリであるからし
ちゃんと有効だった事がわかる。
実際のストーリーの肝は謎解きよりも家族の心の触れ合いだったのかもしれないが、
私は正直ちょっと生理的に受け付けない性格のものだったからしてちと辛い。
そういえばいつも忘れそうになるけれどタックシリーズを描いた人でもあると同時に
チョーモンインシリーズを描いた人でもあるんでした。