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真相 (ねこ4.4匹)

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横山秀夫著。双葉文庫

犯人逮捕は事件の終わりではない。そこから始まるもうひとつのドラマがある。ーー息子を
殺された男が、犯人の自供によって知る息子の別の顔『真相』、選挙に出馬した男の、絶対に
当選しなければならない理由『18番ホール』、会社をリストラされ人体実験のアルバイトを
経験した男が不眠に悩まされ、殺人事件の容疑者に?『不眠』、大学時代の空手部合宿中に
起きた、猛烈なOBのしごきから発生した部員の事故死を振り返る男達『花輪の海』、強盗の
前科をアパートの管理人に知られ、「電脳社会に殺される」とあがく夫婦の物語『他人の家』。
人間の心理を奥深く描いた5編収録の短編集。


しつこいが先月『殺人の門』を読んでからというもの、すっかり「リアリティのある人間の
悪意がふんだんに」「臨場感あるサスペンスと人間ドラマにうち震え」というジャンルが
苦手となってしまった。
おそらく麻疹のようなものでいずれ復活するとは思うが、間違いなくトラウマになっている。
そんな自分でも、横山さんだけは例外だ。出たら買う。買えば読む。
どんな悪意も、鳥肌の立つ心理も、横山さんの描く秀逸な人生の輝き、物事の真実、
1度聞いたら忘れられないフレーズの方が勝ってしまうからだ。

ここに収められた作品群は決して、未来へ向かう、困難を乗り越え一線を越えた逞しい
人間達のドラマではない。おおむね自己中心的な、破滅型の主人公が印象的だ。
特に秀逸だったのが表題作『真相』。一発目に持って来られてしまったので、後の
作品達がくすんでしまったほどに粗のない見事な作品。真相の意外さも
さることながら、二転三転する展開と父親の心理が移行して行く様、家族の隠された
痛ましい心理、真実が見えていなかった愚かさと、母親の芯の通った強さ。
パーフェクトねこ5匹。
この作品を読めただけでも自分は満足している。
復活の日は近しv