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夏と冬の奏鳴曲 (ねこ4.6匹)

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麻耶雄嵩著。講談社文庫。

首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった!20年前に死んだはずの美少女、和音(かずね)の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは?メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。新本格長編ミステリーの世界に、またひとつ驚愕の名作が誕生!(裏表紙引用)
 
20.5.13再読書き直し。再々読かな?
※自分用ネタバレ記事
 
 
つ、つかれた。。700ページ強の力作。初読は15年以上前っぽいが、当時と印象は変わらず。キュビズム理論や非日常的世界観は相変わらず理解できないが、単なる雰囲気付けとは言い切れない確立した麻耶ワールドを見た。
 
出版社準社員の如月烏有(木更津悠也と名前の音が酷似しているのは何故だったか)と高校生の舞奈桐璃が取材のために向かった和音島。そこでは、20年前真宮和音という女優を信奉する人々が共同生活を送っていた。和音の死により解散されたが、このたび同窓会が行なわれるという。不穏な雰囲気の中、やがて和音の肖像画は切り裂かれ、全国規模で夏に雪が降るという珍事が起きる。そして発見された家主の首なし死体は何を語るのか――。
 
本格推理として考えると正統派の解答は差し出されない。ほぼ和音島に集まった人々の宗教的観念を土台として進められ、読者は完全に置いてけぼり。ファンタジーという表現はしたくないが、本作は2人存在する桐璃やモーゼのようにひび割れる地面、存在しない和音という神の概念の中で登場人物の動機や行動が完結する稀有なミステリーだろう。決してなんでもありではないのだ。語り手の烏有に一生引きずるような「罪」を抱えさせることもそうだが、烏有自身が犯人であること、まともな小説であれば傷物となったほうの桐璃を残すべきであることも、作者の裏切りであると言える。これが麻耶雄嵩なのだ。ラストのメルカトル(最後の2ページだけ登場する)の「解決」にしたって、残すのは想像の余地ではなく明らかに実態を持った真実なのだから。
 
麻耶雄嵩が20代前半に描かれた作品であるという。驚きだ。