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翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (ねこ4.8匹)

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麻耶雄嵩著。講談社文庫。

首なし死体、密室、蘇る死者、見立て殺人……。京都近郊に建つヨーロッパ中世の古城と見粉うばかりの館・蒼鴉城を「私」が訪れた時、惨劇はすでに始まっていた。2人の名探偵の火花散る対決の行方は。そして迎える壮絶な結末。島田荘司綾辻行人法月綸太郎、三氏の圧倒的賛辞を受けた著者のデビュー作。(裏表紙引用)
 
20.5.4再読書き直し。
読んだのは3、4回目だと思うが、今回10年ぶりぐらいに読んだので懐かしさ満載。
再読祭りにあたって、時系列を整理し、人間関係をまとめながら書く予定なので、記事も若干ネタバレ気味。特に思い入れのある作家の作品なので、評価は絶賛、好みど真ん中ということで終了。事件の推移と展開をまとめたものになるので未読の方は注意を。
 
 
大企業今鏡グループ現当主・今鏡伊都から木更津探偵事務所に届いた相談と脅迫状。木更津は興味を惹かれ、推理作家の香月を伴い京都にある伊都の住む屋敷・蒼鴉城へ赴く。到着するなり発生していた伊都殺害事件。その死体には頭部と足首から下がなかった。やがて伊都の息子、有馬も頭部がない死体で発見される。玄関の帽子掛けに掛かっていた頭部は有馬のものだと判明するが――。
 
第一章が「翌日、」から始まるという奇特な小説である。どの翌日だ?第二章が木更津が手紙を受け取るプロローグとなっているが、ここの時系列をなぜ入れ替えたのか、あまりその効果のほどは感じられなかった。死体の側にまかれた蜜柑の種、レコードの上に乗せられた頭部、チェストに乗せられ白粉を塗られていた頭部、年齢と精神が乖離した双児の姉妹など、本格推理小説としての舞台装置やお膳立ては満点と言える。家人が次々と殺され、容疑者が狭まっていくも推理が二転三転し真相にたどり着けない難解さも見事だ。木更津という奇妙な探偵のあとに現れる、さらにキャラクターの立ったメルカトル鮎が登場する展開、これがデビュー作(この作品で氏の作品に触れる読者が多いこと)だということを鑑みればかなり挑戦的で稚気にあふれたものだと思う。推理が外れ山に篭る木更津も面白いが、タキシードにネクタイ、シルクハットにステッキという風貌のメルカトル鮎の冗談レベルに芝居がかった人柄に、木更津は一旦喰われてしまう。こいつが真の探偵なのかと思いきや、そのメルカトルが到着早々殺されてしまうのも訳がわからない。再登場した木更津が推理を開陳し解決するも、さらに真相を暴くのは語り手の香月なのだ。
 
 
以下、自分用まとめ。ネタバレ。
 
 
 
放火事件の三ヶ月半後の話。
 
メルカトルの本名は龍樹頼家。伊都の妹、椎月の息子。大阪の探偵。
香月実朝はメルカトルの双児の兄弟。別々の家に引き取られ育てられた。
香月は夕顔にプロポーズ、結婚予定。
 
真犯人絹代は2年間家政婦のひさを演じていた。椎月(娘)を20年間幽閉し、入れ替わった。木更津に手紙を出したのは絹代。
胴と首が離れ別人とくっついた、という真相が真相でなくて良かった。クイーン国名シリーズを踏襲しているが、木更津の推理と真犯人絹代ではその意味合いが若干違ってしまう。国名シリーズはアメリカでは9作であることが推理のきっかけとなった。最初に犯人とされた霧絵は日本語が読めず、「日本樫鳥」をモチーフにするはずがない。絹代の正体はロシアのアナスタシア皇女で、日本人の血が今鏡家に広がることに耐えられなかったことが犯行の動機である。養女である夕顔は他人のため逃れることができた。
夕顔は消された作曲家メドヴェージェフの曾孫である。
 
メルカトルが財産目当てで霧絵に近づいたというのが信じられない。そんな人だったっけか。死体を発見しながら二時間放置するような人間ではあるが。